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モテすぎる俺、好意が重すぎて人生崩壊しかけてる ~ その好意、全部バグです~  作者: レモンティー


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第十二話:冗談は、現実になる

「じゃ、またー」

七瀬は軽く手を振って、駅側方向へ歩いていく。

神谷は一人、駅とは逆方向へ向かった。

(……ホスト、ね)

さっきの会話が頭に残っている。

「やるかよ……」

小さく呟く。

その時だった。

「――ちょっといい?」

やけにフランクな声。

振り向くと、スーツ姿の男が立っていた。

年は二十代後半くらい。

整った髪、整いすぎた笑顔。

「ごめんごめん、怪しい者じゃないんだけどさ」

「時間、少しもらえる?」

もう怪しい。

神谷は無言で見る。

男は気にした様子もなく続けた。

「……何ですか」

警戒する神谷。

男は距離を詰めすぎない絶妙な位置で止まった。

「君さ、めちゃくちゃ目立ってるの自覚ある?」

「は?」

「いやほんと、さっきから周りの視線えぐいよ」

言われて、少しだけ周囲を見る。

確かに――

数メートル先の女性が、立ち止まってこちらを見ている。

スマホを持ったまま、動かない。

別の方向でも。

二人組の女子が、小声で何か話しながら視線を向けている。

(……またか)

神谷は顔をしかめた。

男は、その反応を見て確信したように笑う。

「慣れてる感じだね」

男が笑う。

「そういうやつ、分かるんだよね」

「何がですか」

「“素質あるやつ”の反応」

一歩、近づく。

「スカウトなんだよね、俺」

「……やっぱり」

「そんな顔してた?」

「してました」

「うわショック」

全然ショックそうじゃない。

「……」

神谷は無言。

「安心して。変な店じゃない まあ一応、ちゃんとしたとこね」

「そういう問題じゃないです」

「まあまあ聞いてよ」

男はポケットから名刺を出した。

「うち、結構ちゃんとしてるから」

差し出される紙。

そこには店名と、“高収入”の文字。

「――ホストクラブ?」

神谷の眉が動く。

「そ」

軽くうなずく。

男は笑う。

「ビンゴ」

軽く指を鳴らす。

「いやマジでさ、君みたいなの探してたんだよ」

「断ります」

即答。

間髪入れない。

「即ブロックじゃん」

「興味ないです」

「まあまあ、話だけでもさ」

「聞いても変わりません」

だが男は引かない。

「即決すぎない?」

「興味ないです」

「もったいな」

男は肩をすくめる。

「でもさ、普通こういうのって“頑張って人気出す”じゃん?」

「……」

「君の場合、“もう出てる”からさ」

軽く言う。

「スタート地点バグってるよ」

「……」

「羨ましいわ」

冗談っぽく笑う。

でも――

視線だけは、しっかり観察している。

神谷は小さく息を吐いた。

「それ、俺のじゃないです」

「ん?」

「勝手に引き寄せてるだけなんで」

「へえ」

男は少しだけ興味を強めた。

でも、すぐ軽いトーンに戻す。

「じゃあなおさらいいじゃん」

「よくないです」

男は、くすっと笑った。

「普通は喜ぶでしょ」

七瀬と同じことを言う。

「だから嫌なんです」

神谷は視線を外した。

男は少しだけ考えて――

「まあでもさ」

軽く言う。

「人気なんて、だいたい“そんなもん”だよ」

「……」

「理由とか後付けだし」

肩をすくめる。

「君のはちょっと強いだけ」

さらっと言った。

神谷は黙る。

男は名刺を軽く押し付けた。

「普通なら、人生変わるチャンスなのに」

「……変わるのは分かってます」

神谷は小さく息を吐いた。

「だから嫌なんです」

「ん?」

男が首を傾げる。

「それでもいいじゃん」

即答だった。

男は一歩踏み込む。

「人気なんて、ほとんど作るもんだよ」

静かな声。

「演出、雰囲気、見せ方」

「……」

「でもさ」

男は神谷をまっすぐ見る。

「君のは“本物”だろ?」

その言葉に、わずかに空気が変わる。

「意識してないのに、人が寄ってくる」

「それ、才能だよ」

「違います」

神谷は即座に否定した。

「才能じゃない」

「呪いだ」

初めて、はっきりと言った。

一瞬、沈黙。

だが男は――笑った。

「最高じゃん」

「……は?」

「そういうの、売れるんだよ」

ぞくり、とする一言。

「“危ない匂いがする男”ってやつ」

神谷の表情が固まる。

男は名刺を、ぐっと押し付けた。

「気が変わったら連絡して」

「……」

「絶対、トップ取れるから」

そう言って、軽く手を振る。

「じゃ、またな」

去っていく背中。

残された神谷は、しばらく動かなかった。

手の中の名刺を見る。

(……冗談だろ)

七瀬の声が、頭の中で蘇る。

『ホストとかやればいいかもね』

「……笑えねえ」

その時。

「――ねえ」

背後から、また声がした。

振り向く。

知らない女が、立っている。

さっきより、近い距離で。

目は――完全に、神谷を捉えていた。

「少し、いい?」

その声に、感情はほとんどない。

ただ、引き寄せられているだけ。

神谷は目を閉じた。

(……これが、“売れる”ってことかよ)

名刺を、握り潰した。

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