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おっさんとフレブル  作者: 水前寺鯉太郎
第4部 北回り

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府中〜井原

 2029年10月7日


 府中のキャンプ場で清々しい朝を迎えた俺は、エブリイの運転席のドアを開けた瞬間、思わず頭を抱えた。

「……おい。これは一体どういうことだ」

 新品のはずの座椅子の端から、黄色いスポンジがひょっこりと顔を覗かせている。犯人の検挙に動くまでもない。後部座席で「何も知りません」という顔をして丸くなっている弾丸どもの誰かが、夜中にガジガジとやった形跡だった。

 だが、嘆いていても資産価値は戻らない。俺はすぐさまギヤを入れ、岡山県との県境に位置する井原いばら市へとエブリイを走らせた。

 ちょうどフォロワーさんから『井原のデニムは倉敷の児島に負けないくらいの上等品ですよ』という有力な情報タレコミを得ていたのだ。あの強靭な生地があれば、これ以上の破壊行為を防ぐ防衛ラインを敷けるはずだ。

 無事に井原デニムの直売所へ到着した俺は、並ぶ布地をプロの目で厳しくチェックした。織りの密度、手触り、耐久性。なるほど、フォロワーさんの言う通り文句なしの一級品だ。

 俺はシートの補修用として厚手のデニム生地を仕入れ、さらに車内用にデニム製の頑丈なマットも購入した。これなら3匹の鋭い爪でも破れず、移動時の足腰の負担をさらに減らせるはずだ。

 車に戻り、さっそく作業に取りかかる。

 旅の空の下、当然ミシンなんて便利なものはない。俺は道具箱から太いレザークラフト用の針と丈夫な糸を取り出すと、剥き出しになったスポンジを押し込みながら、分厚いデニム地を力任せに縫い付けていった。

 一針、一針、無骨に施されていく頑丈なパッチワーク。

 作業が終わる頃には、エブリイのシートはどこか頼もしい「旅人仕様」の顔つきに変わっていた。新しく敷いたデニムマットの上で、3匹はさっそく「ふむ、悪くないな」とばかりに爪を立てて感触を確かめている。

「もうガジガジするのは勘弁してくれよ」

 指先に残る針の痛みを苦笑いでなだめながら、俺は新しく、少しだけ渋みを増した相棒のハンドルを再び握り直した。

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