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おっさんとフレブル  作者: 水前寺鯉太郎
第4部 北回り

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北広島〜三次

二〇二九年十月四日


 北広島からエブリイを東へと走らせ、俺たちは広島県北部の中心地、三次みよし市へと入った。

 ここへ来たら、どうしても確かめたい情報があった。事前にSNSのフォロワーから『三次にいくなら「ワニ」を食べてみてください』という、謎のタレコミを得ていたのだ。

 真相を監査すべく、俺は三次のローカルスーパーの鮮魚コーナーへと潜入した。

 そこで俺は、自分の目を疑うことになる。氷の上に並んだパックのラベルには、確かに『ワニの刺身』と印字されていた。

「ワニ? あの狂暴な爬虫類のワニだと? なんでこんな四方を山に囲まれた街のスーパーで売ってるんだ……」

 流通ルートを考えても、元経理マンの常識では全くもって計算が合わない。売り場のポップを熟読して、ようやく合点がいった。この地域では古くから「サメの肉」のことをワニと呼び、海の魚が届かない山間部の貴重なごちそうとして愛してきたらしい。

 味は非常に淡白で、極上の白身魚のようだという。さっそく一パックを購入し、駐車場に停めたエブリイの荷室へと戻った。

 広大なフラットマットの上に腰掛け、即席のダイニングを開店する。パックを開けると、ほんの微かに独特のツンとした香りが鼻腔をくすぐった。醤油をちょいとつけ、一切れ口に運ぼうとした――その時である。

「ハァッ、ハァッ、ハァッ……!」

 背後から、地鳴りのような荒い息遣いが聞こえてきた。

 振り返ると、そこにはボス、エルヴィス、こまの三匹が、文字通り滝のようなよだれを床マットに垂らし、目を血走らせてこちらを凝視していた。

 あの岡山の日生では魚にそっぽを向いた偏食のエルヴィスまで、このサメ特有の匂いには完全に野生のスイッチを押されてしまったらしい。

「よし、お前たちも試してみるか」

 試しに一切れを箸でつまみ、三匹の目の前にかざしてみた。

 ――バチィンッ!

 次の瞬間、俺の指ごと持っていかれるんじゃないかという凄まじい風圧と勢いで、三匹がワニ肉を強奪していった。ハグハグと美味そうに咀嚼音を響かせる弾丸たちを見つめ、俺は苦笑交じりに呟いた。

「おいおい、指の減価償却は勘弁してくれよ。……まあ、元気があってよろしい」

 奇妙なワニの美味さと、相変わらずパワフルな三匹の底なしの食欲。新車エブリイの車内は、早くも我が家ならではの賑やかで温かい熱気に包まれていた。

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