広島県呉市⑩
2029年10月2日
待ちに待った、エブリイの納車日がやってきた。
車屋のロータリーに佇むピカピカの白い箱型車を前にしても、俺は元経理マンとしての冷静さを忘れない。まずは車検証などの重要書類に記載された数字の監査。続いて、ボディに目立たない凹みや初期傷がないか、目を皿のようにして現物チェックを敢行した。よし、完璧だ。
すべての検収を終え、店員からずっしりと重い新しい鍵を受け取る。ギヤを入れ、新車の匂いが満ちるエブリイをゆっくりと我が家へ滑らせた。
マンションの駐車場にエブリイを停め、部屋からボス、エルヴィス、こまの三匹を連れて降りてくる。
「ほら、お前たちの新しい『動く家』だぞ」
カチリとスライドドアを開けた瞬間だった。ジムニーが消えてから一ヶ月間、すっかりお留守番モードで退屈していた三匹の目が、一斉にランランと輝き出した。
圧倒的に広くなった後部座席のフラットな空間を見つめ、三匹はちぎれんばかりに尻尾をブンブンと振り始めた。
「おいおい、そんなに気に入ったか」
ジムニーの死を悼んで遠吠えをしていた奴らだが、この快適そうな新天地を前にしては、現金なほどに大喜びしている。いや、あいつらも分かっているのだ。この四角い相棒がいれば、またあの最高に楽しい旅に出られるということを。
――これで、ようやくまた動き出せる。
十月の心地よい秋風が、新車の窓を通り抜けていく。
軍資金(退職金)の一部をドカンと投じた新しい相棒を前に、俺の胸は、まるで少年時代のように激しく高ぶっていた。
さて……それじゃあ、俺たちの新しい旅を始めようかね。




