相生〜赤穂
二〇二九年七月十七日
「……なぁ、牡蠣とパグの顔って、どこか似てるよな」
ハンドルを握りながらふと呟くと、助手席に座っていたこまが「フゴッ」と短く鼻を鳴らした。それが否定なのか肯定なのかは、俺には分からない。だが、あのくしゅくしゅとしたシワの入り方といい、絶妙なフォルムといい、同じように思っている飼い主は他にも絶対にいるはずだ。
相生市のセルフスタンドでジムニーのガソリンをたっぷりと補給した俺たちは、そのまま西へ向かい、赤穂市へと入った。
赤穂といえば、言わずと知れた忠臣蔵の故郷であり、赤穂浪士の歴史が息づく街だ。赤穂城跡の周辺には、四十七士を祀った大石神社や、彼らにゆかりの深い古い寺院が厳かに佇んでいる。
近くのコインパーキングにジムニーを停め、三匹のリードを引いて歩き始める。実は以前、正月にこの地を訪れたことがあったのだが、その時はあいにく閉門していて城内に入れなかった苦い記憶がある。今回は念願が叶い、ようやくその重厚な門をくぐることができた。
潮風が吹き抜ける城跡をのんびりと散歩させていると、観光客の一人から不意に声をかけられた。
「もしかして、SNSの安村さんですか?」
またしてもフォロワーさんとの遭遇だ。この旅の広がりを嬉しく思いながら少し言葉を交わすと、別れ際に「それならぜひ、巴屋の討ち入りそばを食べていってください」と強く勧められた。
ならば、行かない手はない。一度ジムニーへと戻り、冷房を利かせた車内に三匹をお留守番させると、俺は足早に『巴屋』の暖簾をくぐった。
注文した『討ち入りそば』が運ばれてくる。箸を取り、一気にすする。
――喉越しが良く、とにかく美味い。
なんだか小学生の食レポみたいな単純極まりない感想だが、嘘偽りなく、本当にそれ以外の言葉が思い浮かばないほどに洗練された美味さだった。旅の疲れが、蕎麦の清涼感とともに洗い流されていくようだった。
腹を満たして大満足でジムニーへと戻ると、三匹はエアコンの風を受けながら静かに待っていた。
「よし、次へ向かうぞ」
エンジンを始動させ、ギアを入れる。
次に目指すのは、県境を越えた先にある牡蠣の名産地――岡山県備前市の日生だ。
バックミラーに映る、ボス、エルヴィス、こまの顔を見つめる。
さあ、あのパグに似た生き物の、本場へ行くとしよう。




