加古川〜龍野〜相生
二〇二九年七月十六日
加古川を離れた俺は、ジムニーのハンドルを西へと向け、たつの市を目指した。
この地といえば、誰もが知る高級そうめん『揖保乃糸』のふるさとだ。俺の食卓にも欠かせない好物だが、実のところ、定番の赤帯しか食べたことがない。資料館でその奥深さを知るのも悪くないだろう。
まずは史跡、龍野城へと向かった。
桜の名所として知られる城跡だが、今は緑の木々が夏の太陽を跳ね返している。石垣の上に立つと、揖保川のゆったりとした流れが見渡せた。歴史の重みに浸った後は、本命の『そうめんの里』へ。案の定、施設内はペット禁止のため、三匹には悪いがジムニーで留守番をしてもらった。
レストランで注文したそうめんは、冷水で締められた麺のコシが完璧だった。喉を滑り落ちる清涼感。これぞ夏の贅沢だ。
腹を満たし、たつのを後にした俺は、そのまま隣の相生市へとジムニーを走らせた。夕暮れ時、海沿いの町が茜色に染まり始めた頃に到着する。
この日の締め括りは『ペーロン温泉』だ。もちろんここもペットは不可だが、長距離ドライブの汗を流さないわけにはいかない。一人で風呂に浸かり、火照った身体を潮風で冷ますと、ようやく旅の疲れが霧散していくような気がした。
今夜はここ、相生の海辺で車中泊と決める。
温泉から戻り、ジムニーのドアを開けると、そこにはなんとも無防備な光景が広がっていた。
ラゲッジスペースの定位置では、ボスがすでに深い眠りについていた。エルヴィスは俺の気配に一瞬だけ目を開けたが、俺の顔を確認するやいなや、「なんだ、おっちゃんか」とでも言うように安心しきって再びいびきを立て始める。
極めつけはこまだ。四本の足を空に向けて、腹を出し切った完全降伏状態で夢の世界へ旅立っていた。
「お前たち、本当に気楽でいいな」
俺は思わず苦笑し、彼らの寝姿に挟まれるようにして運転席のシートを倒した。
エンジン音の止んだ車内には、三匹の不揃いな寝息と、窓の外から微かに聞こえる波の音だけがある。俺は大きく息を吐き出し、天井を見上げながら重い瞼を閉じた。明日がまた、どんな一日になるのか。それすらも今は、どうでもいいほど心地よい眠気が俺を包み込んでいった。




