津山〜朝来
2029年7月14日
津山市内でジムニーにガソリンを満タンまで給油したあと、俺たちは兵庫県朝来市へと向かっていた。
スマホの画面の向こうで、フォロワーさんが「高梁の備中松山城と同じように、見事な雲海に浮かび上がる城がある」と教えてくれたのが、この竹田城跡だ。
「これは、備中松山城のリベンジだな」
夏ゆえに雲海との遭遇率は極めて低いと知りつつも、俺の胸はどこか躍っていた。竹田城の麓にジムニーを停めると、明日の本番に向け、俺たちはさっそく「下見」へと出かけた。
……そして、デジャヴ(既視感)はすぐに訪れた。
山道を歩き始めて間もなく、末っ子のこまがトボトボと歩みを止め、あろうことか俺のトレッキングシューズのつま先の上にちょこんと乗ってきたのだ。上目遣いで「抱っこ」を要求する無言の直訴。昨日、あれだけ酷い目に遭ったというのに、この懲りない甘えっぷりには苦笑するしかない。
「だめだ。ここも自分の足で歩くんだ」
心を鬼にして、こまを歩かせる。だが、昨日の失敗を決して繰り返してはならない。元経理マンの脳内監査室は、今回は厳重な警戒態勢を敷いていた。数分おきに立ち止まり、三匹の様子を細かく観察しながら、こまめに冷たい水を分け与えていく。
徹底した兵站(水分補給)管理の甲斐あって、今回は一匹の脱落者も出すことなく、全員で山頂の天守跡へと辿り着いた。
目の前に広がっていたのは、緑豊かな但馬の山々と、遥か下に広がる街並みの大パノラマだった。
いまは白い雲海こそないが、突き抜けるような夏の青空と、山肌を渡る涼しい風が、火照った身体に最高に心地いい。
「雲海がなくても、十分に良い景色だな。……だが、あの白い海が広がったら、一体どれほど凄いんだろうな」
俺は麦茶のペットボトルを傾けながら、まだ見ぬ絶景の広がりを想像していた。




