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おっさんとフレブル  作者: 水前寺鯉太郎
第3部 グランドサークル大縦走

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東広島〜安芸高田

2029年7月2日


 ホットカモの駐車場で、車内を満たしている三匹の凄まじいいびきをスマホで録音し、寝顔の動画付きでSNSにアップしてみた。すると、ジムニーを出発させる頃には、画面が驚くほどの「いいね」で埋め尽くされていた。画面の向こうのたくさんの笑顔を想像し、自然と頬が緩む。

「さて、そろそろ動くかね」

 アクセルを踏み込み、西条の風情ある酒蔵通りを静かに通り抜ける。そこから国道五十四号線へ乗ってひたすら山道を上り、安芸高田市へと入った。

 目指すは、山あいにひっそりと佇む古き良き温泉街「神楽門前湯治村」だ。かつて会社員時代、嫌々参加させられた社員旅行で一度だけ訪れたことがあった。当時は組織の人間関係に疲れ果て、景色を楽しむ余裕すらなかったが、大体のルートは体が覚えていた。

 夕方前、懐かしい木造の街並みが広がる湯治村に到着した。

 ここは伝統の神楽が有名だが、俺の本当のお目当ては、フォロワーさんたちも絶賛していた名物「夜叉やしゃうどん」だ。あのピリ辛の刺激的な美味さが、夏の疲れた体に絶対に効くはずだった。

 ただし、事前にフォロワーさんから教えてもらった通り、敷地内の散策は犬連れでも可能だが、うどん店を含めた施設の中までは三匹を連れて入れない。

 今夜はこの湯治村の駐車場で一泊、車中泊をする。

 となれば、山の夜とはいえ初夏の熱帯夜。三匹の命を守るため、ジムニーのエアコンを一晩中フル稼働させ続けなければならない。俺は近くのガソリンスタンドに立ち寄り、燃料計の針が「満タン」の位置を越えるまで確実にガソリンを注ぎ入れた。

 アイドリングの燃料消費は一時間あたり約一リットル未満。一晩中つけても十リットルも使わない。よし、これで熱中症対策の計算は完璧だ。

 給油を終え、再び湯治村へとジムニーを滑り込ませる。夕暮れの涼しい風が、どこか懐かしい神楽のお囃子の音を運んできた。

 まずは三匹をスリングから下ろし、このレトロな湯治場をゆっくりと散策してみるか。

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