東広島
2029年7月2日
日中は容赦のない酷暑になることが分かっていたため、俺たちは早朝の出発を選択した。
午前六時。外はうっすらと朝焼けが広がり始めたばかりだというのに、ボス、エルヴィス、こまの三匹は相変わらずエンジン全開だった。
俺自身、五時には目を覚ましたのだが、あいつらはそれより前にとっくに起きていたらしい。「親父、遅いぞ! 早くしろ!」とばかりに、短い尻尾をちぎれんばかりに振って出発を催促してくる。この旅を誰よりも楽しみにしていたのは、案外こいつらの方なのかもしれない。
呉の街をあとにし、広方面から呉東広島自動車道へとジムニーを滑らせる。早朝の冷ややかな空気の中、遮るもののない高架道路を走るのは実に気分がいい。
午前九時。最初の目的地である東広島にあっさりと到着した。だが、さすがに早すぎた。
どこかで時間を潰そうと街をブラブラと走らせていた時のことだ。ロードサイドに「ハンバーグ」の赤いのぼり旗が見えた瞬間、三匹が弾かれたように色めき立った。
「ワン! ワンワン!」
車内はたちまち大騒ぎだ。お前ら、出発前に朝飯を食ったばかりだろう。鼻ペチャたちの恐るべき食い意地に苦笑しながら、俺はジムニーを一度安全な場所に停め、なだめるように高級ジャーキーをひときわ大きくちぎって与えた。
さて、どうやって時間を潰すか。
少し考え、俺はジムニーを「ホットカモ」へと向かわせた。東広島が誇る、良質な天然温泉施設だ。
当然、館内はペット同伴禁止。ジムニーのエアコンを「強」にして車内を冷やし、三匹には特等席で少しの間お留守番をしてもらう。
朝の光が差し込む湯船に浸かり、早朝運転の凝りをじっくりと解きほぐす。旅の初日に浸かる朝風呂というのは、どうしてこうも贅沢なのだろう。
心も体もすっかりリフレッシュしてジムニーへと戻り、そっとドアを開けた。
「ただいま」
出迎えの声の代わりに、車内からは「フゴーッ……フゴーッ……」という、三匹分の太く大きないびきが綺麗にシンクロして響いていた。さっきのハンバーグ騒ぎが嘘のように、彼らは重なり合って爆睡している。
その無防備な寝顔をルームミラー越しに見つめながら、俺は静かにアクセルを踏み込んだ。




