因島〜呉
2029年4月18日
四月十八日の火曜日。因島のコインパーキングを出た俺は、しまなみ海道を越えて尾道へと渡った。
そのまま呉の自宅マンションへと一気に車を走らせる。窓を開けて風を浴びていたとはいえ、さすがに長旅だ。ボス、エルヴィス、こまの三匹からは、彼ら特有の少し香ばしいような、それでいて愛着のある匂いが漂い始めていた。
久しぶりに自室のドアを開けると、三匹は我先にとリビングへ駆け込み、喜びを爆発させてぐるぐると走り回った。ようやく帰ってきたんだ、と彼らも安心したのだろう。だが、安らぎも束の間だ。
「はい、終わりの儀式だぞ」
俺の言葉に、一瞬で空気が凍りついた。風呂場へ連行されることを察したボスとエルヴィスが、情けない「フゴーッ」という声を上げる。新参者のこまに至っては、その状況を理解したのか、四本の足で細かくプルプルと震えだしていた。
浴室へ引きずり込むと、そこからは戦争だった。
「フゴーッ! 離せ!」
俺の腕の中でボスとエルヴィスが激しく暴れ、浴室中が彼らの悲鳴と飛び散る飛沫で混沌と化す。なんとか二人を洗い終え、タオルで包んでやる。さて、最後はこまだ。捕まった瞬間、「フゴフゴーッ!」とこれまでにないほど激しい叫び声を上げたが、俺は容赦なく風呂場へ連行した。洗い終えてタオルで巻くと、そこにはまるで未知の惑星から来たような、奇妙で愛くるしい「宇宙人」が鎮座していた。
無事に三匹の入浴を終え、俺は奮発して買っておいた高級ジャーキーを配給した。
戦いを終えた彼らは、俺の指からジャーキーをひったくると、夢中でガツガツと食らいついた。その姿を見ながら、俺はソファに深く腰を下ろした。
次の旅は夏ぐらいか。そんな先の話をぼんやり考えながら、俺はスマホを手に取った。アカウント名を変える時が来たのだ。
『おっさんと愉快な仲間たち』
これなら、こまもボスもエルヴィスも、全員が納得してくれるだろう。
画面を閉じ、部屋の静寂の中で窓の外の夜景を眺める。広島の、いつもの部屋。だが、確実に何かが変わった。俺はもう、一人じゃない。
――さあ、次はどこへ行こうか。俺はバディたちの温もりを感じながら、心地よい疲労感の中に静かに目を閉じた。
(第3部へ続く)




