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おっさんとフレブル  作者: 水前寺鯉太郎
第2部 東回り

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今治〜因島

2029年4月17日


 今治を発ち、瀬戸内海に浮かぶ島々を繋ぐ「しまなみ海道」をジムニーで渡る。いくつかの橋を越え、広島への帰還を前にした最後の寄り道――因島いんのしまへとやってきた。

 ここはかつて瀬戸内を支配した村上海賊、すなわち「水軍の街」だ。車窓には、巨大な造船所のクレーンや頑強な重機が工場に鎮座している。その鉄と潮が混ざり合った無骨な景色は、五十五歳になった今の俺の心に、妙に心地よく響いた。

 お昼時、SNSのフォロワーさんから「因島なら『いんおこ』を是非」と熱い推しコメントが届く。具材にこんにゃくが入っているという、広島出身の俺も知らなかった未知の食文化だ。

 三匹には、店へ入る前のお詫びとして、鮮魚店で仕入れた新鮮な刺身を振る舞った。海の王者のような顔つきで、夢中で皿をさらう三匹を見届けてから、俺は鉄板の前に座る。

 焼き上がった「いんおこ」をヘラで運ぶ。ぷにぷにとしたこんにゃくの食感、モチモチのうどん、そしてイカ天の深い旨味。そのすべてが調和し、旅の疲れを優しく解きほぐしていく。フォロワーさんの情報に、またしても脱帽した。

 お腹も心も満たされ、ジムニーのシートに深く背中を預ける。

 窓の外、因島の空を見上げた。明日はいよいよ、旅の出発点であり、故郷である広島へと帰る。

 あの頃、出口のない迷路のように感じていた自分の街に、今の俺は、どんな顔で帰ればいいのだろうか。

 かつて背負っていた重い影は、この長い旅路の中で、瀬戸内の風に溶けて消えてしまった気がする。

 さあ、旅のラストランだ。明日はゆっくりと、広島の土を踏むとしよう。

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