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おっさんとフレブル  作者: 水前寺鯉太郎
第2部 東回り

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丸亀〜今治

2029年4月16日


 丸亀を出発した俺たちは、瀬戸内海の海岸線を西へとひた走り、愛媛県・今治市へ降り立った。今治といえば、何より「今治焼き鳥」の街だ。

 車を走らせていると、道沿いに香ばしい焼き鳥の写真がデカデカと刷られたのぼり旗が見えてきた。すると、窓に張り付いていたボス、エルヴィス、こまがその写真に強烈に反応した。文字など読めるはずもないのに、美味そうな肉の気配を察知したのか、「ワンワン!」「ブフフッ!」と色めき立って大騒ぎを始める。

「おいおい、お前たちのじゃないって」

 激しく抗議する三匹をなだめ、車内でお留守番をさせる。単身店内に乗り込み、鉄板でプレスされ、カリカリに焼き上げられた名物を頬張る。甘辛いタレの香ばしさが口いっぱいに広がり、思わず溜息が漏れた。

 だが、真の修羅場はジムニーに戻ったあとに待っていた。

 ドアを開けた瞬間、三匹が一斉に俺の顔目掛けて飛びかかってきたのだ。口元に残った焼き鳥の匂いを嗅ぎつけ、「俺たちを置いて美味いもん食ったな!」と顔中をベロベロに舐め回してくる。五十五歳になったばかりの男が、車内で犬たちに圧倒され、必死に平謝りする羽目になった。

「悪かった、悪かったから! ほら、お前たちにもあるんだよ」

 平謝りしながら、途中のスーパーで買っておいた犬用の鶏もも肉(もちろん生・味付けなし)をパックから取り出す。

 しかし、肉の塊を前にした三匹の興奮はすでに頂点だった。俺の手から強引に肉を奪い取ると、ボス、エルヴィス、こまの三匹が、両端からガシッとくわえ込んで猛烈な引っ張り合いを始めてしまったのだ。

「あ、こら、待て――」

 俺の制止も虚しく、鶏もも肉は三匹の凄まじい顎の力によって、ベリベリとお見事なまでに引きちぎられていく。野生剥き出しでガツガツと肉を咀嚼する我が子たちを見ながら、俺は苦笑しつつ、顔に付いたよだれをタオルで拭った。

 さあ、今治の肉祭りもこれでおしまいだ。

 明日は、いよいよ目の前にそびえる「しまなみ海道」の橋を渡る。

 旅の出発点である広島、そして呉の街が、もうすぐそこまで近づいている。

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