竹原〜忠海
2029年4月3日
竹原から国道をさらに東へ走り、港町・忠海へとたどり着いた。
お腹がすっかり空いていた俺は、ふと目に入った地元のお好み焼き屋の暖簾をくぐった。三匹をエアコンの効いたジムニーで少しだけ待たせ、カウンターの端に腰を下ろす。
目の前の鉄板で、生地とキャベツがジュウジュウと小気味よい音を立てて焼かれていく。コテで切り分け、ハフハフと頬張る。ソースの焦げる香ばしさと、蒸されたキャベツの甘み。気取らないその味が、一日の疲れを癒やし、身体の奥にじんわりと染み渡った。
大満足で店を出ると、眼前の瀬戸内海が、言葉を失うほど真っ赤な夕焼けに染まっていた。
会社員時代、この場所を通り過ぎることはあっても、沈みゆく夕日をただ眺める余裕なんて持てなかった。今の俺には、それがある。ただぼんやりと、海が暗闇に変わるまでの時間を使える――その贅沢さを、俺は心ゆくまで噛み締めた。
冷たい潮風を胸いっぱいに吸い込み、今夜はここの静かな港の駐車場で、ジムニーを泊めて車中泊をすることにした。
「大久野島か。ウサギの島……またの機会だな」
明日には、あの大久野島へのフェリーに乗り込もうかと考えていたが、急ぐ必要はない。
俺は車内に戻り、三匹の寝顔を眺めながら、バックパックから毛布を取り出した。窓の外では波の音が静かに響いている。
五十三年間の過去を背負って走ってきたジムニーは、今夜、瀬戸内海の夜風に包まれて、俺と三匹を優しく守ってくれている。




