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おっさんとフレブル  作者: 水前寺鯉太郎
第2部 東回り

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野呂山〜竹原市

2029年4月3日


 野呂山を下りた俺たちは、瀬戸内沿いの国道百八十五号線をさらに東へ進み、「安芸の小京都」と呼ばれる竹原の街へと到着した。

 ジムニーを停めて立ち寄った「町並み保存地区」は、まるで江戸時代にタイムスリップしたかのような情緒ある漆喰の壁や格子窓の建物が美しく並んでいる。案内板を見ると、ここは日本のウイスキーの父と呼ばれる竹鶴政孝の生家がある地でもあるらしい。

 あいにく俺は酒をほとんど嗜まないのでウイスキーの味は分からないが、歴史の重みを感じる古い佇まいを三匹とゆっくり歩くだけで、長年の会社生活で凝り固まった心が、じんわりと解けていくのを感じた。

 遅めの昼食をとるため、すぐ近くの「道の駅 たけはら」へ。

 ここからは三匹には少しの間、エアコンを効かせたジムニーでお留守番をしてもらい、俺は一人、二階のフードコートのテーブルについた。

 注文したのは、ボリュームのあるカツカレー。

 スプーンですくい、口へ運ぶ。サクサクの衣に包まれたカツは驚くほどジューシーで、スパイスの奥にあるコクと旨味に、思わず笑みがこぼれた。

 思えば、二年前の春に呉を飛び出したばかりの頃は、ただ胃袋に食べ物を流し込むだけで、飯の味なんて分かりもしなかった。こうして旅先で、美味いものを美味いと素直に感動できる。それだけで、会社を辞めて自由を選んだ自分の選択は、何一つ間違っていなかったと思えた。

「よし、お前たちにも土産だ」

 留守番のご褒美にと、一階の売店で見つけた地元のブランド牛「峠下牛たおしたぎゅう」の犬用ジャーキーを奮発して買い、ジムニーへと戻る。

 袋をカサカサ鳴らし、喜ぶ顔を楽しみにドアを開けた――が、車内に響き渡っていたのは、「フゴォ……」「ブフッ……」「ピー……」という、三者三様の盛大ないびきだった。

 午前中の山頂散歩と撮影会で、よほど体力を使い果たしたのだろう。後部座席で三つ巴になって泥のように眠る鼻ペチャたちを見て、俺は肩の力を抜き、脱力しながらも愛おしさに胸を突かれた。

「……まぁ、起きたときのお楽しみだな」

 贅沢なお土産をダッシュボードに置き、静かな寝息に満ちた車内で、俺は心地よい午後の余韻に浸りながら次のルートを頭の帳簿に描き始めた。



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