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おっさんとフレブル  作者: 水前寺鯉太郎
第2部 東回り

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広島県呉市⑦

2029年4月2日


 四月二日の午前。俺は呉市内のセルフガソリンスタンドに滑り込み、ジムニーのタンクをレギュラーガソリンで満タンにした。

 給油を終え、そのまま洗車マシーンへと車を進める。ゲートが作動し、ゴオォォという重低音とともに巨大なブラシがフロントガラスへ迫ってくると、リアシートのこまとエルヴィスが飛び上がるようにして固まった。窓の外で吹き荒れる水しぶきに、二匹は未知の怪物に襲われたかのような絶望の表情を浮かべている。それを横目に、助手席のボスだけが「またこれか」と言わんばかりに退屈そうにあくびを噛み殺していた。三年の経験値の差は伊達ではない。

 ピカピカに磨き上がったジムニーを走らせ、俺たちはその足でかかりつけの動物病院へと向かった。これから始まる長い旅路の前に、バディたちの健康の防壁を固めておくのは親の義務だ。

 待合室から診察台へ上がると、空気を察したエルヴィスとこまが「フゴフゴッ!」と鼻息を荒くして決死の抵抗を試みた。だが、ベテランの看護師さんたちにプロの技で優しくホールドされると、観念したように借りてきた猫のように大人しくなる。

 チクリと狂犬病の予防注射を済ませ、フィラリアとノミダニの血液検査をクリアしたところで、旅の期間中をカバーできる数ヶ月分の予防薬(美味い肉タイプのものだ)をどっさりと処方してもらった。

 すべてのミッションを終え、昼過ぎに一度マンションの部屋へと戻る。

 静まり返ったリビングの真ん中に大判の地図と大きなボストンバッグを広げ、俺は本格的な荷造りを開始した。

 自分の着替えは数日分あればいい。バッグの大半を占めていくのは、三匹分のプレミアムフード、おむつ、そしてお気に入りの頑丈なおもちゃたちだ。

 部屋の隅、病院の緊張から解放されて泥のように眠る三匹の規則正しい寝息を背中で聴きながら、俺は静かに荷物のジッパーを閉めた。

 準備は、すべて整った。

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