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おっさんとフレブル  作者: 水前寺鯉太郎
第2部 東回り

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広島県呉市⑥

2029年4月1日


 新たなる旅立ちの前日。俺は自宅のバスルームで、3匹のバディたちをまとめて風呂に入れるという、本日最大のミッションに挑んでいた。

 まずは新入りのエルヴィスと、お転婆なこま。やはり風呂は苦手なようで、脱衣所のタイルを踏み鳴らし、「フゴフゴ」と必死の抵抗を試みてくる。浴室の床が、早くも濡れた足跡で大騒ぎになりかけた、その時だった。

「ワンッ!」

 脱衣所の隅でどっしりと構えていたボスが、短く、だが威厳に満ちた声で吠えた。

 その一喝で、それまで暴れていた2匹がピタリと動きを止める。まるで優秀な軍隊の若造たちが、鬼軍曹の命令に直立不動になったかのようだった。さすがは俺と修羅場をくぐり抜けてきた先住犬だ。我が家の『ボス』の肩書きは伊達じゃない。

 大人しくなったところで、順番に温かいシャワーを浴びせていく。

 最後に黒パグのこまの番になり、全身の毛を濡らしてやった瞬間、俺は思わず吹き出しそうになった。

 ただでさえ大きな目が、水に濡れて細くなった顔の中でさらに強調され、まるで映画に出てくる未知の宇宙人のようになっていたからだ。当の本人は、大きな目をパチくりさせながら、なんとも情けない顔で俺を見上げている。

 3匹を洗い終え、バスタオルとドライヤーを総動員して乾かし終える頃には、俺のTシャツは彼らが飛ばした水飛沫で完全に色が変わっていた。

 だが、リビングに広がったシャンプーの爽やかな香りと、お互いに体を寄せ合って毛並みを整えている3匹の姿を見ていると、不思議と疲れは吹き飛んでいた。

 身だしなみは整った。

 さあ、明日はいよいよ、新しいルートへ舵を切る番だ。

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