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おっさんとフレブル  作者: 水前寺鯉太郎
第1部 いい日旅立ち・西へ

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山口〜周南

2027年4月24日


 少し長く寝すぎたようだった。

 顔面に覚える温かい湿感に目が覚める。薄目を開けると、すぐ目の前でボスが真面目な顔をして、俺の頬をペロペロと熱心に舐め回していた。慌てて時計を確認すると、針はすでに午前十一時を回っている。スケジュールを持たない自由の特権とはいえ、我ながら呆れるほどの朝寝坊だった。

「悪かったな、ボス。飯にしよう」

 身支度を整え、遅めの昼食を求めて山口市内の店へジムニーを走らせた。お目当ては、山口の誇るソウルフード「瓦そば」だ。

 運ばれてきた熱々の瓦の上で、鮮やかな緑の茶そばがジュウジュウと小気味いい音を立てている。牛肉や錦糸卵、海苔の香ばしい匂いが一気に広まった。

 さあ箸をつけようとした、その瞬間だった。俺の隣りにいたボスが、滝のようなよだれをダラダラと垂らしながら、親の敵でも見るような猛烈な圧をこちらに送ってきた。中津の唐揚げの時と同じ、完全なるおねだりの構えだ。

「ダメだ、ボス。これにはネギも入っているし、お前の身体には強すぎる」

 俺は心を鬼にして、ボスの口元をペーパーで拭い、身代わりに犬用のクッキーを一切れ差し出した。ボスは不満そうにそれを引ったくると、くちゃくちゃと不貞腐れたように咀嚼し始める。それを横目に、俺はパリパリに焼けた風味豊かな茶そばを濃い目のつゆにくぐらせ、一気に口へと運んだ。甘辛い牛肉の旨味とレモンの酸味が、寝起きの身体を心地よく覚醒させてくれた。

 午後一時過ぎ。腹を満たした俺たちは山口市を出発した。

 ジムニーのギヤをトップに入れ、国道2号線を東へとひた走る。山あいの景色をいくつか追い越し、一気に瀬戸内海沿いの工業都市、周南市へと滑り込んだ。

 右手に時折のぞく瀬戸内の穏やかな海が、午後をまわった日差しを浴びてキラキラと輝いていた。

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