秋芳洞〜山口
2027年4月23日
秋吉台の広大な闇を抜け、ジムニーを東へと走らせるうちに、あたりはすっかり暗くなっていた。夜の帳に包まれた一般道を一時間ほど進み、俺たちは山口県の中心部である山口市へと滑り込んだ。
県庁所在地とはいえ、夜の山口市はどこか静かで、落ち着いた大人の哀愁が漂っている。
通り沿いのコンビニの駐車場にジムニーを停め、マルボロに火をつけた。煙を吐き出しながら、店内で買い求めたばかりの山口の観光雑誌をダッシュボードの上で広げる。
ルームランプの淡い灯りに照らされたページを、パラパラとめくっていく。
国宝の瑠璃光寺五重塔、風情ある湯田温泉、あるいは幕末の志士たちが密議を凝らしたという枕流亭――。見どころには事欠かない街だ。
かつての仕事人間だった頃の俺なら、分刻みのスケジュールを組み、効率だけを求めて動いていただろう。だが、今の俺には縛るものなど何もない。明日、どこへ向かうかも、何を食べるかも、すべてはその時の風任せだ。
「……よし。明日はとりあえず、適当にこの街を回ってみるか」
声に出して呟くと、助手席のシートで丸くなっていたボスが、薄気味悪そうに「ふがっ」と短く鼻を鳴らした。行き先を決めない旅の贅沢さを、こいつも少しは理解し始めているのかもしれない。
雑誌を閉じ、シートを少し倒す。窓の外に広がる西の京の静かな夜を感じながら、俺は心地よい疲労感とともに、ゆっくりと目を閉じた。




