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おっさんとフレブル  作者: 水前寺鯉太郎
第1部 いい日旅立ち・西へ

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萩〜秋芳洞

2027年4月23日


 四月二十三日の朝、俺はとんでもない見落としに気づいた。

 山口県が誇る日本最大のカルスト台地、秋吉台をルートから完全に除外したまま、東へ進もうとしていたのだ。現役時代の出張でも、ここの案内看板だけは何度も目にした記憶がある。一度は見ておくべきだと、俺は萩から一度西の長門市へとジムニーを引き返させた。

 長門のバイパス沿いにあるコンビニに滑り込み、愛煙しているマルボロの赤を二箱買い足す。車内に戻り、一本に火をつけて深く煙を吸い込んだ。紫煙の向こう、助手席のボスが「早く行こうぜ」とでも言うようにフガフガと鼻を鳴らす。

 ハンドルを南へと切り、美祢みねの山あいを抜けて秋吉台へと向かった。

 地上に広がっていたのは、緑の草原の中に無数の白い石灰岩が転がる、まるで別世界のような光景だった。

 ボスを連れて遮るもののない大台地を少し散歩したあと、俺たちはその真下に広がる東洋一の鍾乳洞、「秋芳洞」の入り口へと向かった。

 洞内はペットの同伴が許されているが、床を歩かせるわけにはいかない。俺はボスをスリングの中にしっかりと収め、胸に抱きかかえるようにして薄暗い洞窟の裂け目へと足を踏み入れた。

 一歩踏み込んだ瞬間、空気が一変した。

 外の春の陽気が嘘のように、地下の世界は厳かで、驚くほどひんやりとしている。

「冷えるな、ボス」

 胸元に声をかけると、スリングの中から見上げてきたボスが、ブルッと小さく身体を震わせた。体温が下がらないよう、俺はスリングの上から相棒の身体をコート越しにぎゅっと引き寄せた。

 ライトアップされた「百枚皿」や、天井へとそびえ立つ「黄金柱」といった何万年もの時間をかけて作られた自然の彫刻を、俺たちは静かに見上げた。地下水の滴る音だけが響く巨大な闇の空間で、胸の中の相棒の確かな鼓動と温もりだけが、俺を現世に繋ぎ止めてくれているようだった。

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