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おっさんとフレブル  作者: 水前寺鯉太郎
第1部 いい日旅立ち・西へ

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32/106

小倉〜下関

2027年4月21日


 四月二十一日の朝。俺はジムニーのイグニッションキーを回した。

 メーターを見ると燃料が残り少なくなっていたため、まずは近くのスタンドに滑り込んでガソリンを満タンにする。旅の相棒にたっぷりと飯を食わせたあと、俺たちは最初の目的地である小倉城へと向かった。

 小倉城を囲む勝山公園の遊歩道を、ボスをスリングに入れてのんびりと散歩させる。

 すると、すれ違う観光客たちが次々に足を止め、ボスを見て歓声を上げた。フレブル独特の愛嬌のある顔が琴線に触れたのか、特に若い女性や外国人観光客のグループからモテモテだった。

「写真を撮ってもいいですか?」と笑顔で尋ねられ、俺がカメラのレンズに向けてボスの顔を軽く固定してやると、ボスは誇らしげに「フガン」と鼻を鳴らしてポーズを決めていた。にわかアイドルの誕生に、周囲からは温かい笑い声が漏れる。普段の殺伐とした日常から最も遠い、平穏で優しい時間だった。

 心地よい散策でお腹が空いた午後は、小倉の名物である老舗のサンドイッチファクトリーへと足を運んだ。溢れんばかりの具材が挟まれたボリューム満点のサンドイッチを頬張り、そのあとは大きな観覧車が目を引くチャチャタウン小倉へとジムニーを走らせ、のんびりと街を散策した。

 小倉の都会的な活気を十分に堪能したところで、俺は九州の旅の「最後の仕上げ」にかかることにした。

 老舗のお茶屋の暖簾をくぐり、福岡が誇る名茶「八女茶」の袋を買い求める。

 佐賀の嬉野、鹿児島の知覧、宮崎の都城、延岡、そして福岡の八女。助手席に鎮座する五つ目の茶葉の袋を見つめながら、俺の胸には九州を巡った確かな足跡と、バラバラになっていた自分自身の輪郭が、少しずつ形を取り戻していくような深い充足感が満ちていた。

 夕暮れ時。俺たちはついに九州の北端を抜け、関門海峡を渡って山口県の下関へと入った。

 バックミラーに映る九州の山並みが、夕日に赤く染まっていく。

「楽しかったな、ボス。ここからは本州だ」

 助手席で小さくあくびをした相棒に声をかけ、俺はまだ見ぬ中国地方の夜路へとジムニーを進めた。

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