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おっさんとフレブル  作者: 水前寺鯉太郎
第1部 いい日旅立ち・西へ

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別府〜中津〜小倉

2027年4月20日 


 四月二十日。別府の動物病院を後にした俺とボスは、大分県の北端に位置する中津市へとジムニーを走らせた。

 青空に映える威風堂々とした中津城を眺め、かつてこの地を治めた天才軍師・黒田官兵衛の資料館をじっくりと巡る。歴史のロマンに存分に浸った後は、お楽しみの昼食だ。中津といえば、何をおいても『中津からあげ』を選ばない手はない。

 人気の専門店に立ち寄り、揚げたて熱々の唐揚げをバラで数個、買い求めた。香ばしい醤油とガツンと効いたニンニクの香りが鼻腔をくすぐり、堪らず車内で一口齧る。カリッとした衣の中から、ジューシーな鶏の旨味と熱い肉汁が弾けた。

「……美味い」

 そう感動した瞬間、太ももにグイッと強い圧力を感じた。

 見下ろすと、スリングから身を乗り出したボスが、口元からよだれをダラダラと垂らしながら、らんらんとした目で俺の手元の唐揚げを凝視していた。

『俺にもくれ。くれないとここで大暴れしてやるぞ』

 フォーンの顔を限界まで近づけてくる、凄まじい迫力だ。

「ダメだぞ、お前はさっき病院のご褒美ジャーキーを食べただろう。それにこれは玉ねぎやニンニクが入ってるから、犬には毒だ」

 真剣に言い聞かせながらも、あまりの気迫とシートにまで落ちそうなよだれの量に、おっさん一人が完全にタジタジになってしまう。この底なしの執念があるから、スリングが日に日に重くなるわけだと苦笑するしかなかった。

 夕方、中津を出発してジムニーをさらに北上させ、夜にはすっかり暗くなった北九州・小倉の街に入った。

 気がつけば、九州の旅もいよいよ本州の手前まで来た。ここを渡れば、広島はもうすぐそこだ。そう思うと、少し寂しいような、どこか誇らしいような、不思議な気分が胸に満ちてくる。

 けれど、さすがに連日の長距離移動の疲れは確実に溜まっていた。

「小倉観光は明日にして、今夜はゆっくり休もうな」

 助手席のボスに語りかけると、こいつはもう唐揚げの執着など綺麗さっぱり忘れたように、満足そうな顔で座席に丸くなっていた。

 パーキングに車を停め、夜風の中で赤のマルボロに火をつける。明日の小倉、そして旅の終わりを想いながら、俺たちは今夜の深い眠りについた。



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