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おっさんとフレブル  作者: 水前寺鯉太郎
第1部 いい日旅立ち・西へ

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別府②

2027年4月20日


 四月二十日、午前。せっかく別府に来たのだからと、駅近くの風情ある共同浴場へ向かった。もちろんボスは湯船には連れていけない。四月とはいえ南国の陽射しはすでに強い。直射日光の当たらない屋内パーキングを選び、ジムニーのエアコンをしっかりと効かせたまま、「少しだけ待ってろよ」とボスの頭を撫でてから湯船へと急いだ。

 熱い名湯に浸かって素早くカラスの行水を済ませ、すぐさま愛車へと引き返す。

 午後からは、各所から湯けむりが立ち上る別府名物『地獄めぐり』へ。

 ボスを小脇のスリングに収めて歩き始めたのだが、あちこちの地獄を巡るうちに、左肩にずっしりとした確かな重みが食い込んできた。

「おいボス……お前、心なしか重くなってないか?」

 スリングを覗き込むと、フォーンの相棒は知らんぷりでフゴッと鼻を鳴らした。都城牛に宮崎地鶏。そりゃあ、連日あれだけのご馳走を俺と分け合っていれば、身も詰まるはずだ。

 地獄の絶景を堪能したあとは、この旅の隠れた最重要ミッションである地元の動物病院へジムニーを走らせた。ちょうど狂犬病の予防接種と、フィラリア対策の季節なのだ。

 見知らぬ土地の診察台に上げられたボスは、ただごとではない気配を察して「フガフガ! フゴーッ!」と必死の抵抗を試みた。だが、ベテラン獣医さんの慣れた手つきを前に形勢不利と悟ったのか、途中から完全に諦めモードに突入した。大きなバットイヤーを後ろにピタッと寝かせ、いわゆる『ヒコーキ耳』になってシュンと丸くなっている。その情けない姿が、たまらなく愛おしい。

 チクリとした注射の痛みに耐えたご褒美に、近くのホームセンターへ寄り道して、少し奮発した新しいおやつを買い与えた。

 ジムニーの助手席で、さっきまでの落ち込みが嘘のように大喜びでジャーキーに食らいつくボスを見ながら、俺は肩をすくめた。

 重くなったって構わないさ。元気に飯を食って、こうして俺の旅に付き合ってくれれば、それでいい。

 車外の片隅で、赤のマルボロに火をつける。温泉の匂いを含んだ風が、優しく煙をさらっていった。

「さて、次はどこへ向かおうかね」

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