宮崎〜延岡
2027年4月19日
四月十九日、朝。宮崎市内のセルフスタンドでジムニーのタンクをガソリンで満たし、俺たちは延岡市へと向かった。
延岡と聞いて思い出すのは、かつて俺の部署にいた若い女性部下、稲田のことだ。生真面目だが少し不器用で、「私の地元、宮崎の延岡は何もないですから」と控えるように苦笑いしていた稲田の横顔が、ハンドルを握る俺の脳裏に不思議と鮮明に蘇る。あの頃の俺は、仕事にかまけて、部下のそんな何気ない言葉にさえ、まともな相槌を返せていなかった。
その後、稲田は異動先の他部署で酷いパワハラを受け、壊れるように退職していった。当時の俺は自分の保身と激務を言い訳に、あいつの手を引いて守ってやることができなかった。今でも思い出すたびに、胸の奥が苦く疼く後悔の一つだ。
午後、到着した延岡城跡の城山公園を、ボスをスリングに入れてゆっくりと歩く。
石垣を登りきった瞬間、俺は思わず息を呑んだ。
そこには、広島を出たときには想像もできなかった、生命力に満ち溢れた鮮やかな新緑のベールと、城跡を埋め尽くすように咲き誇る、文字通り満開のヤヤザクラや色とりどりのツツジの海が広がっていたのだ。冬の冷たい雨の中にいたはずの俺の視界が、この南の国の城跡で、一気に鮮烈な「春」の色に染まっていく。
「フガフガ! フゴーッ!」
胸元のボスが、新緑の匂いと花の香りに興奮したのか、フォーンの顔を上に向けて見たこともないほど激しく鼻を鳴らした。
「綺麗だな、ボス。お前もそう思うか」
ボスの生きている温もりを抱きしめながら、花のトンネルを見上げる。
稲田、俺は今、お前の故郷にいるよ。あの時守れなかったダメな上司は、今、最高の相棒に守られながら、お前が愛した街の美しい春を見ている――。
木陰の喫煙所で携帯灰皿を開け、赤のマルボロに火をつけた。紫煙が優しく新緑に溶けていく。
「さて、次はどこへ向かおうかね」




