霧島市〜都城
2027年4月18日
あの緊張の朝を過ぎてから、琴音からのラインはぱたっと止んだ。
きっと彼女も、もう別の場所へ向かったのだろう。ダッシュボードに置いた『明石屋』の袋から春駒を取り出し、一口齧る。もっちりとした独特の食感と小豆の素朴な甘さが、ささくれた俺の心をゆっくりと解きほぐしていくのが分かった。よし、気持ちを切り替えよう。
ジムニーは霧島市を越え、宮崎県の都城へと滑り込んだ。
盆地特有の乾いた風が心地いい。お茶好きとしては見過ごせない「都城茶」の茶葉を買い込み、ふと、助手席でこちらを見上げている相棒に目が留まった。昨晩は俺のせいで、車内でもホテルでも怖い思いをさせたな。
お詫びの印に、物産館で少し奮発して、犬用の都城牛ビーフジャーキーを買い与えてみる。
袋を開けた瞬間、ボスの目がらんらんと輝いた。俺の指ごといく勢いでジャーキーをひったくると、フゴフゴと鼻を鳴らしながら、くちゃくちゃと美味そうに音を立てて食べ始めた。
「おいおい、そんなに急がなくても誰も取らないよ」
呆れながらも、その無邪気な姿に胸の奥がじんわりと温かくなる。
元妻の影に怯え、過去に引きずられていた自分が馬鹿らしく思えてくる。俺の隣には、美味そうに肉を食うこいつが生きている。それだけで、この旅の続きを走る理由は十分だった。
少し広めの駐車場でジムニーを止め、携帯灰皿を開ける。赤のマルボロから立ち上る煙が、都城の青空へまっすぐ吸い込まれていった。
「さて、次はどこへ向かおうかね」




