鹿児島〜長崎鼻
2027年4月17日
明石屋での買い物を終えてジムニーに戻り、何気なくスマートフォンの画面に目を落としたとき、俺の指先が止まった。
元妻の琴音から、短いLINEが入っていたのだ。
画面に並ぶ文字を追っていくうちに、心臓の鼓動がわずかに速くなる。どうやら、彼女も今、九州を旅しているらしい。具体的な場所までは書かれていなかったが、同じ空気を吸っているというだけで、急に居心地の悪さが胸に広がっていった。
今さら会ったところで、互いに気まずいだけだ。それだけは、どうしても避けたかった。
逃げるようにエンジンをかけると、俺は鹿児島市内を後にして、薩摩半島の最南端へとジムニーを急がせた。
一時間半ほどのドライブを経て辿り着いたのは、長崎鼻だった。
青い海に向かって突き出た岬に立つ、朱塗りの「龍宮神社」の境内へと足を運ぶ。ボスをスリングから降ろし、心地よい潮風が吹き抜ける遊歩道をゆっくりと散歩させた。
ふと視線を上げると、海の向こうに「薩摩富士」と称される開聞岳が、その圧倒的に美しい稜線を堂々と聳え立たせていた。
どこか超然としたその山容を眺めているうちに、琴音のLINEによって乱されかけていた心の波が、少しずつ凪いでいくのを感じた。
「さて、ボス。次はどこへ行こうか」
足元で嬉しそうに尾を振る相棒に声をかけながら、俺はポケットのマップに目を落とした。元妻の影から遠ざかるため、それとも、この旅の本当の終わりを見つけるため。俺たちのジムニーは、まだまだ止まるわけにはいかなかった。




