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おっさんとフレブル  作者: 水前寺鯉太郎
第1部 いい日旅立ち・西へ

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鹿児島

2027年4月17日


 四月十六日の夜、俺たちは鹿児島市内へと入った。

 鹿児島といえば、真っ先に頭に浮かぶお菓子がある。「軽羹」だ。

 昔、仕事の出張か何かで一度だけ食べたことがあるのだが、あの独特のしっとりとした上品な食感と甘みが、なぜかずっと忘れられずにいた。

 今夜はもう遅い。コインパーキングにジムニーを滑り込ませ、明日、この街をゆっくり歩きながら探そうと思いながら、俺は目を閉じた。


 明けて、四月十七日の午前。

 俺は愛用のスリングの中にボスをすっぽりと入れ、市街地へと歩き出した。目指すのは「明石屋」だ。ここの軽羹はとにかく格別だと、昔、会社の同僚が熱っぽく語っていたのを思い出したのだ。

 風格のある店構えの暖簾をくぐると、店内には目当ての軽羹だけでなく、目移りするほど様々なお菓子が美しく並んでいた。

 せっかくここまで来たのだ。軽羹だけでなく、少し贅沢にいろいろと買い込んでみることにした。

 伝統を感じさせる高麗餅に、香ばしい炒粉餅、そして「一黙」と名付けられた上品な菓子を包んでもらい、店を後にする。

 ふとポケットを探ると、タバコが切れていることに気づいた。近くの古びたタバコ屋に立ち寄り、馴染みのマルボロの赤をひと箱買い求める。

 ジムニーへと戻り、近くの公園のベンチに腰を下ろした。

 ペットボトルの温かいお茶を一口すする。そして、買いたての軽羹を丁寧に包みから剥ぎ、口へと運んだ。

 真っ白で繊細な、山芋の優しい風味が口いっぱいに広がる。記憶の中にあったあの味が、鮮やかによみがえった。

「フガッ?」

 足元でボスが美味そうな匂いを察知して鼻を鳴らすが、「これをお前にやると太りすぎるからな」と頭を撫でてやるだけにとどめた。

 少し離れた場所で、ボスをのんびりと草の上に遊ばせながら、俺はマルボロに火をつけた。

 紫煙が鹿児島の青い空へとゆっくり溶けていく。

 甘い軽羹の余韻と、タバコのほろ苦い煙。それだけで、今の俺には十分すぎるほどの贅沢だった。

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