熊本〜鹿児島
2027年4月16日
朝、熊本市を出発した俺たちは、八代を抜けて海岸沿いをさらに南下した。
いくつかのトンネルを抜けると、ついに鹿児島県へと入る。
東シナ海の青い水平線を右手に眺めながら、ジムニーで薩摩川内を駆け抜け、いちき串木野へと滑り込んだ。
串木野は遠洋マグロ漁業の町として知られている。地元の物産館に立ち寄り、お目当てだった鮮やかな赤身の刺身を買い求めた。
潮風の吹き抜ける駐車場でパックを開ける。それが、俺とボスの少し遅い昼飯になった。
「ほらよ、昨日の馬肉に続いて今日もご馳走だぞ」
筋のない上質な赤身を一切れ差し出すと、ボスは相変わらず一瞬でそれを口の奥へと吸い込んでいった。そのあまりに豪快な食べっぷりに、俺の口元から自然と笑みがこぼれた。
腹を満たしたあと、少し車を走らせて日置市の湯之元温泉に立ち寄った。
ボスには申し訳ないが、助手席で少しの間の留守番を頼む。歴史ある古い湯に身を沈めると、ここ数日の長距離ドライブで凝り固まっていた身体の疲れが、じんわりと湯の中に溶けだしていくようだった。
少し火照った体でジムニーへと戻り、起こさないようにドアをそっと開ける。
「ただいま、ボス」
当然、返事はない。
ボスは助手席に不器用に体を丸め、フゴー、フゴーと小さな地響きのようないびきをかいていた。旅の疲れが出たのだろう。その無防備極まりない寝顔を見つめていると、胸の奥が温かいもので満たされ、無性に愛おしさが込み上げてきた。
夜、鹿児島市内のコインパーキングに車を停めた。
静かにエンジンを切ると、車内には、ボスの穏やかな寝息だけがいつまでも優しく響いていた。




