博多〜糸島
2027年4月9日 夜
結局、あのまま博多で一泊することにした。
夜、明かりの灯った屋台が軒を連ねる通りを、ボスの散歩がてら歩く。
すれ違ったほろ酔いのサラリーマンから「可愛いワンちゃんやね。写真撮らせてくれんね」と声をかけられ、ボスは慣れた様子でレンズに顔を向け、男は満足そうに人混みへと消えていった。
少し落ち着いた屋台の暖簾をくぐり、足元にボスを待たせておでんとラーメンを注文する。
「これ、まだ味を付ける前に茹でたやつだから、ワンちゃんに格好の土産たい」
屋台の気さくなおばちゃんが、ボスのためにと仕込み用の牛すじの端切れを少しだけ分けてくれた。
俺の足元で、ボスは嬉しそうにその肉を頬張っている。
美味そうに鼻を鳴らす相棒の気配を感じながら啜るラーメンのスープは、五臓六腑に優しく染み渡った。
翌朝、四月十日。
朝の清々しい日差しを浴びてコインパーキングを出た俺のジムニーは、糸島を目指して車を走らせていた。
窓を少しだけ開けると、流れ込んでくる海風が信じられないほど気持ちいい。助手席のボスは、我が物顔で窓から顔を出し、耳をパタパタと風に遊ばせていた。
午前十時頃、目的の糸島へと到着した。
海岸線に佇む二見ヶ浦の夫婦岩を眺めたあと、白い砂浜にある「椰子の木ブランコ」へとやってくる。大きな椰子の木に吊るされた木製のブランコに、ボスをちょこんと乗せてみた。
スマートフォンを構え、ファインダー越しにボスの写真を撮る。
ボスはバランスを取りながら、どこか誇らしげに、とても満足そうな顔をして太平洋(※正しくは玄界灘)の水平線を見つめていた。
画面に収まった相棒のふてぶてしい横顔を見て、俺の口元からも、自然と小さな笑みが溢れていた。




