三原〜呉
二〇二九年十月十四日
三原のコインパーキングを出発したエブリイは、西へ向けて滑るように走り、見慣れた広島の景色の中を抜けていった。そして夕方、俺たちは久しぶりに我が家へと帰ってきた。
ガチャリと玄関の鍵を開け、部屋の中に一歩足を踏み入れた、その瞬間だった。
「ガルルルル!」
「フゴォーーッ!」
ボス、エルヴィス、こまの三匹は、部屋に入るなり弾かれたようにリビングへ飛び出し、猛烈な勢いでぐるぐると円を描いて走り回り始めた。
ベッドからソファへ、ソファからデニムのクッションへ。リビングの床を激しく蹴りながら、これでもかと全力疾走を繰り返す。長旅を終えて自分のテリトリーに戻ってきた喜びを爆発させる、我が家の「帰宅の監査(恒例行事)」だ。
「おいおい、そんなに走ったらまた筋肉痛になるぞ」
俺は苦笑しながら、旅の荷物を床に下ろした。
確かに新調したエブリイの車内は快適だったが、やはり自分の家という固定資産の安心感は別格らしい。ひとしきり走り回って満足したのか、三匹はハァハァと舌を出しながら、定位置のカーペットの上にドサリと横たわり、早くも眠たそうな目をこちらに向けてきた。
三匹の寝顔を眺めながら、俺は冷たいお茶を一口すすり、スマホのマップを開いた。
「次は、冬か――」
カレンダーの帳簿をめくれば、すぐに次の季節がやってくる。冬といえば、瀬戸内の東、岡山の日生や兵庫の相生あたりが、極上の「牡蠣」のシーズンを迎える頃合いだ。
大粒の牡蠣をこれでもかと鉄板に並べ、生地と一緒に焼き上げる名物「カキオコ」。あの濃厚な海のミルクの旨味を、エブリイのダイニングで検収する誘惑には到底抗えそうにない。
「よし、お前たち。次は冬の『カキオコ遠征』だな。今のうちにしっかり体力を蓄えておけよ」
眠りについた弾丸たちの健やかな寝息をBGMに、俺は早くも冬の特別予算案(次の旅行計画)をニヤリと練り始めるのだった。
(第4部・完 / 第5部に続く)




