尾道〜三原
二〇二九年十月十三日
尾道のコインパーキングを朝早くに出発したエブリイは、国道を西へ進み、隣の三原市へと入った。
三原といえば、とにかく「タコ」が有名である。
なぜこれほどタコを推しているのか、詳しい理由は俺にはわからない。おそらく、このあたりの海域でたくさん捕れるからなのだろうと、頭の中で大まかな推察(仮説検証)だけを済ませておく。
エブリイを停め、三匹のリードを引いて三原の小綺麗な街並みをブラブラと散策する。
すると、向こうから歩いてきた熱心な風貌の男性から「あ、もしかしておっさんと愉快な仲間たちですか!?」と声をかけられた。なんと、俺の旅路をネットで見守ってくれているフォロワーさんだという。
「いつも応援しています」
そう言って握手を求められ、少し照れくさかったが、悪い気はしなかった。こうして見知らぬ土地で誰かと繋がれるのも、SNSという名の無形資産の恩恵だろう。
フォロワーさんと別れたあと、俺は駅近くの店で今夜のつまみとして名物の「タコ天」を買い求めた。
揚げたての香ばしい匂いが袋から漂った瞬間、エブリイの車内は一気に緊迫した空気に包まれた。ボス、エルヴィス、こまの三匹が、文字通り目を皿のようにして俺の手元を凝視し、デニムマットの上にポタポタとよだれを垂らし始めたのだ。強烈なアセット(タコ天)への分配要求である。
「駄目だ。お前たち、これは完全にコンプライアンス違反(安全基準未達)だ。絶対にやれん」
タコは犬にとって非常に消化が悪く、喉に詰まらせるリスクも高い危険食材(不良資産)だ。三匹の熱い視線を容赦なくスルーし、俺はタコ天の袋をダッシュボードの奥へと格納した。
不満げに「フンッ」と鼻を鳴らす弾丸たちを乗せ、俺はコインパーキングの精算を済ませてエブリイのギヤをドライブに入れた。
――悪いな、お前たち。その代わり、夜のドッグフードは少し弾んでやるからな。
バックミラーに映る、少し拗ねたような三匹の顔を見ながら、エブリイは三原の街をあとにし、いよいよこの旅の最終決算地へと向かって走り出すのだった。




