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おっさんとフレブル  作者: 水前寺鯉太郎
第4部 北回り

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しまなみ海道〜尾道

二〇二九年十月十二日

 

 大三島をあとにしたエブリイは、しまなみ海道の美しい橋を次々と渡りきり、ついに広島県へと帰還した。夕暮れの光に包まれた、坂と映画の街――尾道おのみち市である。

 市内のコインパーキングに車を停め、俺は夜の千光寺せんこうじでも散策しようと、後部座席のスライドドアを開けた。

「おい、尾道の街に着いたぞ。降りて散歩にするか」

 声をかけたが、返ってきたのは静寂だけだった。三匹はエブリイのデニムマットの上にべったりとへばりついたまま、文字通りテコでも動こうとしない。

「……ははっ、そうか。昨日の松山城の筋肉痛が、今頃になって一気に来たか」

 寄る年波には勝てないのは、犬も人間も同じらしい。無理に行かせても歩行の減価償却が進むだけだ。俺は三匹を快適な車内に残し、単身、夜の尾道の街へと繰り出すことにした。

 今夜のターゲットは、言わずと知れたソウルフード「尾道ラーメン」だ。

 暖簾をくぐり、運ばれてきた熱々の一杯と対峙する。醤油ベースの深いコクがあるスープに、大粒の豚の背脂がたっぷりと浮いている。

 フーフーと息を吹きかけ、麺をすする。

「――染みるな」

 ガツンとくる醤油の塩気と、背脂のまろやかな甘みが、四国を駆け抜けてきた疲れた身体の細胞一つ一つにジンワリと染み渡っていく。

 実は、元経理マンとして健康管理の帳簿をシビアにつけている俺は、普段ラーメンのスープは塩分を考慮して必ず「残す派」と決めている。それが我が家の健康防衛のガバナンス(統治)だった。

 だが、今夜ばかりは箸が止まらなかった。気がつけば、最後の一滴まで器を傾け、スープを綺麗に飲み切ってしまっていた。今回の旅の充実感が、脳内の予算委員会に特別決議を出させたのだろう。文句なしの、大満足の完食(黒字決済)だ。

 夜風に吹かれながらエブリイへと戻り、静かにドアを開ける。

「おい、ただいま――」

 車内からは、すでに「フゴーッ……フゴーッ……」と、筋肉痛を癒すかのような心地よい三重奏のいびきが響いていた。

 スープまで完飲した俺の胃袋の温かさと、爆睡する三匹のぬくもり。新しい相棒エブリイの空間は、旅の心地よい疲労感とともに、尾道の穏やかな夜へと深く沈んでいくのだった。

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