松山〜今治
2029年10月11日
松山市内のコインパーキングを出発したエブリイは、瀬戸内海を左手に眺めながら、今治方面へと北上した。
道中、スマホを開くとフォロワーたちから『今治なら絶対「焼豚玉子飯」ですよ!』と多数の推奨コメントが届いていた。だが、画面を見つめながら俺は小さく首を振る。
「悪いな、フォロワー。俺は昔から半熟卵だけは苦手なんだ。固茹でか、完全に火の通ったターンオーバーの目玉焼きしか受け付けない性質でね……」
せっかくの好意を脳内監査で却下しつつ、俺がハンドルを切ったのは今治名物の鉄板焼鳥の店だった。
串に刺さず、重い鉄板で一気にプレスして焼き上げる独自のスタイル。口に運ぶと、皮の脂が炭火に弾けてパリパリ、サクサクと実に小気味よい音が響く。このクリスピーな食感は文句なしの黒字決算だ。
自分の腹を満たしたあと、俺は売店に立ち寄り、3匹のために味付けなしの「鶏もも肉」を仕入れてエブリイへと戻った。
スライドドアを開けた瞬間、助手席からエルヴィスが弾丸のように肉に肉薄してきた。その目は完全に「自分だけ美味いもん食いやがって」と非難の色を帯びている。言い訳を許さぬ勢いで、俺の顔をベロベロと濡れた舌で猛烈に舐め回してきた。
「わかった、わかったから少し落ち着け! ほら、お前たちにも特別賞与(お土産)だ」
俺がエブリイのデニムマットの上に鶏もも肉を差し出した、その時である。
――ガブッ! バチィン!
「ガルルルッ!」
ボス、エルヴィス、こまの3匹が一斉に肉の端々に食らいつき、凄まじい力で引っ張り合いを始めた。新車の車内で繰り広げられる、野生の三つ巴デスマッチ。
――ブチィッ!
肉が3つの塊に引きちぎられると、3匹はそれぞれ「自分の取り分」を確保し、デニムマットの上でフゴフゴと満足そうに大きな鶏肉を頬張り始めた。
「おいおい、せっかくの新しい車なんだから、もう少し上品に食えないのかね……」
マットに飛び散った肉汁を拭き取りながらも、あっという間に肉を平らげて満足げに鼻を鳴らす弾丸たちを見て、俺の口元は自然と緩んでいた。
――まあ、美味そうに食うんだから、これでよしとするか。
今治の香ばしい余韻を残しながら、俺たちの旅はまた一歩、次なる地へと転がり出す。




