松山②
二〇二九年十月十日
松山市内のコインパーキングで目覚めた俺たちは、朝の散歩を兼ねて、街の中心にそびえる勝山――松山城への登城を開始した。
だが、この城は想像以上に鉄壁の要塞だった。
天守へと続く本丸までの道は、果てしなく続く急な石段の連続。さすがの弾丸たちもこの高低差には閉口したようで、なかなか足を前に進めてくれない。それどころか、末っ子のこまに至っては、俺の足元にトコトコと寄ってきたかと思うと、俺の靴の上にちょこんと前足を乗せて見上げてきた。露骨な「抱っこ要求」の監査請求である。
「駄目だ。ここで甘やかしたらお前たちの運動不足、ひいては肥満の原因になる。自力で歩きなさい」
冷徹に要求を却下し、あえてそのまま歩かせる。我が家の健康管理の防衛ラインは、そう簡単には突破させない。
励まし、急かしながら、どうにかこうにか松山城の天守閣へと辿り着いた。
本丸広場に座り込むと、ボス、エルヴィス、こまの三匹は、一斉に「ハァ、ハァ、ハァ……!」と長い舌を限界まで突き出して息を切らせていた。
俺は道具箱からペットボトルを取り出し、犬用の給水ノズルを装着した。それをまるで哺乳瓶でもあやすかのように口元へ持っていく。
「ほら、現物給与(水分補給)だ。しっかり飲めよ」
三匹は交互にノズルに吸い付き、ペロペロ、ピチャピチャと一心不乱に水を喉へと流し込んでいく。その必死な飲みっぷりを眺めていると、不器用な愛おしさが胸の奥に込み上げてくる。
ふと顔を上げると、眼下には松山の美しい街並み、そして遠くにはキラキラと秋の陽光を反射する瀬戸内海が広がっていた。
自分の足で登りきったからこそ得られる、この雄大なパノラマという名の「最高利回り」。
「いい眺めだな、お前たち」
少しだけ涼しくなった秋風に吹かれながら、俺は早くも明日の目的地へと脳内コンパスを向けた。
――明日は、タオルの街・今治へとエブリイを走らせる。
そこでは一体、どんな美味いアセットが俺の胃袋を待っているのだろうか。




