辺境の領地
ドラゴン馬車から降りると城壁を触れてみる。
触れた瞬間に崩れてしまい、防御の意味をなしていない。
ある意味想像通りの辺境の領地だ。
ここから手を加えていくとなると相当大変になることが予想できる。
なにせ何もない村だ。
村人も碌に食べ物もないだろうし、そもそも荒れ地だから作物も碌に育たないはず。
そうなると土壌改良も必須か。
水も見た限り近くに水源はない。
遠くから水を引っぱってくる必要がありそうだ。
あとは、辺境ということもありいつ魔物が襲ってくるかもわからない。
防御は固めておく必要があるだろう。
「やることは多そうだな」
「そうだね。まずはカイルくんが住むところをしっかりさせないと」
「いや、俺の住むところなんて後回しでいいぞ」
「そんなわけにはいかないよ。むしろ最優先で作らないとダメだからね!」
「その前に困窮してる村人達にご飯を……あれっ?」
村を見るといつ潰れてもおかしくないような見た目をしているにも拘わらず屈強な人たちばかりが道を歩いている。
「辺境だからね。血に飢えた人たちしかいないよ? だからカイルくんの身を守るのは最優先なの」
「あ、あぁ……、それで良さそうだな」
出鼻を挫かれた感じだが、事戦いにおいてすぐに問題になることだけはなさそうとわかりホッとするのだった。
「それで領主の屋敷は……」
「こっちだぞ。付いてこい」
どうやらマルスが場所をわかるようでその後に続く。
すると、なぜかそこには周りから浮きまくりのやたら豪華な建物が建っていた。
「ここだな」
「……ちょっと待て。いや、さすがにこれはおかしくないか? どうしてこんな場所にこんな建物が建ってるんだ?」
「領主だから良いところに住むのは当然だよ?」
「それはそうだが、そこを差し引いても豪華すぎるぞ?」
「当たり前だよ。だって、カイルくんの住む場所だからね」
頭が痛くなってくる。
辺境の領主だからもっと質素な生活を送る物だと思っていたのだが、そこは俺の勘違いだったのか?
まぁ、俺も別に貧しい生活がしたいわけじゃないので、そこも目を瞑ることにする。
すぐに職務ができると考えると悪いこともないだろう。
「さて、なにから手を付けていくか……」
前任者らしき人がまとめてくれているこの領地の状況を調べる。
それは酷い数字が並んでいた。
資金は底を尽き、作物の収穫量もほとんどゼロ。
領民は逃げていき、税収もほとんどない。
確かに領地の建物を見ているかぎり、そこに書かれているものは事実に思える。
しかし、それだと通りを闊歩していた屈強な男たちがどうしているのか不思議に思える。
いや、領民じゃないからここには数えられていないだけか?
「おっと、最新のものを預かってきてるぞ」
マルスが懐より別の紙を取り出す。
そこには――。
「って、なんでだよ!?」
思いっきり紙を机にたたき付ける。
もはやマイナスだったはずの領地の資金が突然プラスになっている。
しかも、宝くじでも当たったのか、今までに見たことがない額のプラスだ。
おそらく王都でも遊んで暮らせるくらいの金額じゃないだろうか?
領民もここ一週間ほどで入ってくる人が増加。
しかも三桁近い人数が毎日来ている状況だ。
それに伴い、税収も大幅増。
さすがに農作物の収穫だけはどうにもなっていないのか変わらないが、食料品だけはかなり増えている。
おそらくは金品で買い求めているのだろう。
俺がたたき付けたことで、不安を感じたのかマルスはその紙に数字を書き足す。
「すまん、資金が間違えていた。実際はこうだ」
そうだよな。さすがにいきなり増えすぎだよな。
そう思い、修正された紙を見る。
資金のところにゼロが二つ加えられていた。
――なんで更に増えてるんだよ!?
俺は再び紙をたたき付けるのだった――。
◇◇◇
やたら不自然な金の動きはこの際無視することにする。
裏組織から流れてきたような金なら困るが、マルス達が気にしていないところを見るとちゃんとした資金なのだろう。
それなら有効活用させてもらう。
「この町、井戸を引くことができるのか?」
「うーん、あんまり良くないかも。元々戦いばかり起こる場所だからね。作ったとしてもすぐに埋まっちゃうかもだし、綺麗な水を掘り出すには相当掘らないとダメだから……」
「そうなると川から水道を敷くのが一番か」
「結構大がかりな工事になりそうだね」
「でも、町の整備をする前にやっておけば各家にも引っぱることができるからな。排水を流す下水も同時に整備していけば、いずれは役に立つはずだ」
周りの地図を広げると、高い山脈に湖があることに気づく。
おそらくはここから引っぱってくるのが一番だろう。
「あとは襲撃に備えて、防御面の強化が必要だな。いずれは城壁を作るとして、今は個々に対応してもらうしかないか。堀くらいは作ったほうが良いと思うか?」
「そうだな。もちろんこの領地に足を踏ませないのがベストだが、いざという時を考えるとあったほうがいいな」
「それならその工事も同時に行う。人出も資金もかなり必要になるだろうが、それは問題ないのだろう?」
おそらくはマルスが何かしら準備をしてくれていたのだろう。
それを察しながらなにも口に出さずに聞いてみると、マルスは頷いてみせる。
「その辺り、出来そうな奴を探しておく。詳細はまた煮詰めようか」
「あの、すこし良いかな?」
「どうかしたか?」
リリアが申し訳なさそうに手を挙げてくる。
「町の形が定まったら弱い魔物が入らないように結界を張りたいかな」
「それって簡単にできるのか?」
「本当は教会の許可をもらって聖女を派遣してもらう必要があるんだけどね。結界に必要な聖魔石が必要になるし、それなりの資金を寄付する必要があるんだ……。でもね」
リリアが懐から白く輝く石がたくさん入った袋を取り出す。
「この通り、今回はしっかり準備してきたよ。私、聖女だし結界も張れるしね」
もしかして、事前にここまで示し合わせていたのかも知れない。
「それなら町の形を先行して考えるか。堀もそれに沿わせるしな」
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