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どうやら俺は死んだ勇者の転生者らしい  作者: 空野進


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7/8

漆黒のドラゴン

 辺境の領主といったらどんなことを想像するだろうか?


 転生系の漫画を読んでいた俺からしたら、やはり知識を生かした開拓チートだろう。


 農業では痩せた土地には肥料を使ったり、二毛作をしたり。

 井戸を作ったり、水を引っ張ってきて上下水道を作ったり。

 金策にはオセロやチェスといったものを作ったり。


 他にもたくさんある。

 さすがにその全てを詳細まで覚えているわけではない。


 それでも開拓に使えそうなものはしっかり思い出していた。


 確かに危険な辺境地である。

 なんの準備も無しに行けば、即座に危機に陥るだろう。

 そもそも食料等が足りなくて明日生きていくのも大変なところかもしれない。


 とんでもない量の援助物資は逆にそれほど危険なところに行かないといけないという裏付けでもある。


 襲ってくるのは魔物や害獣か、はたまた隣国や魔族か。



「カイルくん、大丈夫? 馬車に酔った?」

「いや、平気だ」

「それならいいけど、こーんな怖い顔をしてたよ?」



 リリアが自分の顔を横に引っ張って、しかめっ面を作ろうとする。

 しかし、元が可愛らしい彼女だとむしろ微笑ましい。


 思わず笑ってしまうとそれが気に食わなかったのか、頬を膨らませていた。



「むぅ、心配したのに」

「悪い悪い。これから向かう領地のことを考えてたんだ」

「……安全なところだよ」



 リリアは有無を言わさない笑みを浮かべていた。



「でも、国王様は危険な辺境地って言ってたよな?」

「大袈裟に言ってたんだよ。私たちも昔行ったことがあるけど、全然平気だったよ?」



 リリアは視線を他の二人へ向ける。



「そうじゃな。大したことなかったぞ」

「どこでも魔物くらいは出るからな。念のために注意を促したんだろうな」



 三人が揃って安心させるように言ってくる。



「それならいいが、たとえばどんな魔物がいたんだ?」

「えっと、それはね……」

「と、トカゲじゃ。食いごたえのある大きなトカゲがいたのじゃ」



 ソフィが両手を広げながら言う。


――なるほど、ドラゴンがいるのか。


 ただリリアたちは俺がいなくなることを極端に恐れている節がある。


 そんな彼女たちが平気だというのだからこの世界じゃドラゴンはそれほど脅威じゃないのかもしれない。




◇◆◇



「おいっ、あんなバレバレな嘘をついてどうするんだ!?」



 カイルに聞こえないようにマルスは小声で怒っていた。



「す、すまんのじゃ。カイルにだけは嘘をつけなかったのじゃ」



 ソフィは縮こまり、深々と帽子を被っていた。



「仕方ないよ。私もカイルくんに嘘はつけないし。それはマルスくんも同じでしょ?」

「うっ、確かにそうだが…………。でもあの言い方だといずれ俺たちがドラゴンを倒さないといけなくなるぞ? 勝てるのか?」

「あのときはカイルくんの力があって何とか……だったもんね。出ないことを祈ろうよ」

「そうじゃな……。奴らは基本山奥から出てこんからな。よほどの事がない限り平気じゃろ」

「それもそうだな。数百年に一度現れるかどうか、くらいの魔物だからな。すでに一度会っているんだ。生きてるうちにはおめに掛からないだろう」



 安堵の息を吐くマルス。

 その言葉がフラグになるとは三人は全く思っていなかった――。




◇◆◇




 馬車に揺られて十数日が過ぎた。

 最初は何もかも目新しかった馬車の旅も三日も経てば飽きてくる。


 なにせトラブルらしいトラブルは起きず、同じような景色を見ているだけなのだから。

 そもそも道も舗装されているわけではなく、震動が酷く、腰が痛くなる。


 でも、二日目にそんなことを口にしてしまってからは、リリアがなぜか俺を膝の上に座らせてこようとする。

 子供じゃないのだから丁重に断るのだが、その際の悲しそうな目を見ると俺も心が痛んでしまう。


 ちなみにそのことも話すと慌てて回復魔法を掛けられた上で、念入りに体をチェックされるという拷問が待っていたが。


 この世界ではおそらくそういうちょっとした痛みが死へと繋がってしまうのだろう。

 うかつなことを言うのはなるべく控えた方が良さそうだ。


 ただ、意外とこの国の治安はいいのか、盗賊や魔物が現れることはなかった。

 これは俺にとっては朗報である。


 さすがに命のやりとりをするには経験がなさ過ぎるし、覚悟もぜんぜん決まっていない。

 そんな俺がいては邪魔になるだけだろう。



「領内に入ったな。町には数日もあればつきそうだ」



 御者をしているマルスが前から声を出す。

 これでようやく馬車の旅も終わりか……。


 馬車の外を見ると良い具合に草原や森が見えている。

 遠くには岩山だろうか?

 何もない辺境だとはっきりとわかる。


 これで危険さえなければ俺の望んだ田舎暮らしも出来るだろう。


 ただ、これだけ長い旅。

 何のトラブルもなしに終わるはずもなかった。



「おい、お前たち。ドラゴンが出たぞ!」



 その言葉と同時に馬車の中に緊張が走る。



「……やり過ごせる?」

「妾の魔法なら姿を消すくらいは出来るのじゃ」

「よし、それでいくか」



 リリアたちが相談し合っていた。

 確かにドラゴンをやり過ごせば俺たちに被害はないだろう。

 でも、ただならぬ様子であることは俺ですらわかる。


 ここで俺たちが助かったとしても周りの町や村、人々に被害が出るんじゃないだろうか?

 それを黙って見過ごすことが俺にできるのか?


 確かに俺は偽の勇者だ。

 所詮体だけ借り受けた紛い物だ。


 それでも、俺を勇者だと信じてくれている仲間たちを考えると――。



「いや、待ってくれ。ここは迎え撃とう」

「カイル!? ど、どうしてそんな危険なことを」

「ま、待つのじゃ。そんなことさせるわけにはいかないのじゃ」



 リリアとソフィが腕を掴み、必死に懇願する。

 するとマルスが落ち着いた声で聞いてくる。



「理由を聞いても?」

「あいつを放置したらこの近くに被害が出るんじゃないのか?」

「…………」



 リリアたちは黙ってしまう。

 それが答えだった。



「こんな俺でもここの領主だ。危険を黙って見過ごすなんてできない」



 もちろん足はガタガタと震えているし、なにか出来るとも限らない。

 この体が持つ潜在的な力に賭けるしかない状況だ。



「……わかった」

「マルスくんっ!?」



 リリアが泣きそうな声を上げる。



「カイルが自分で考えて決めたことだ。なら俺はそれに従うだけだ」

「で、でも、危険で……」

「なら俺たちがカイルを守れば良いだけだろう」

「っ!? うん、わかったよ、私がカイルくんを守るから。だから、いなくなったら嫌だよ」

「仕方ないのじゃ。妾が一撃で吹き飛ばしてやるから安心するといいのじゃ」



 覚悟を決めた俺たちは馬車に降りると向かってくるドラゴンを睨み付ける。



「ぐおぉぉぉぉ…………」



 うなり声にも似た低い声を上げる漆黒のドラゴン。

 常に口を開け、何度も閉じている様子は獲物を探しているようにも思える。


 するとその歯の間に光り輝く何かが見える。


――あれは?


 確認しようにも遠すぎてよく見えない。

 よく目を凝らして見ようとする。


 すると、それは口の中に刺さった剣だということがわかる。


――もしかしてあれが原因で暴れているのか?


 マルスが巨大な盾を構え、リリアが結界の魔法を使う。

 ソフィは極限まで魔力を溜めていた。


 皆、ドラゴンを倒すために精一杯のことをしようとしてくれている。



「……待ってくれ」

「どうしたのじゃ。今は集中して……」

「あのドラゴンと話がしたい」

「……正気の沙汰じゃないぞ? 暴走しているドラゴンに話が通じるものか」

「やってみないとわからないぞ。ソフィ、なにかそういう魔法はないか?」

「あるにはあるが……、ええい、どうせ命を共にするのじゃ。カイルに賭けるのじゃ」



 ソフィが溜めた魔力を使い、念話の魔法を使う。

 俺とドラゴンの体が温かい光に包まれる。



『聞こえるか?』

『ぐおぉぉぉ……』



 まるで聞く耳を持って貰えない。

 いや、痛みで周りの声が聞こえなくなっているんじゃないだろうか。



「リリア、あのドラゴンに回復魔法を」

「そ、そんなことをしたら、あのドラゴンが元気になっちゃうよ」

「早く!!」

「わ、わかったよ」



 リリアも俺に促されるまま魔法を使う。



『ぐおっ?』

『どうだ? 少しは痛みがマシになったか?』

『お主は一体……。ぐお、痛い、痛いぞ』

『もしかして口の中が痛むのか?』

『そ、そうだ。誰でも良いから早く取ってたもれ』

『やはりか……』



 俺は再びリリアの方を見る。



「カイルくん。その……、危険なことは私たちに任せて……」

「もっと回復魔法を使ってくれ」

「で、でも、あのドラゴンが襲ってきたら……」

「大丈夫だ。はやく」

「……カイルくんを怪我させたら許さないんだからね。回復魔法(ヒール)!」



 リリアが慌てて回復魔法を使う。



『これでマシになったか?』

『まだまだ痛むぞ』

『それは原因が取り除けてないからだ。今からそれを取り除く。大人しく俺の前に止まってくれるか?』

『だ、ダメじゃ。速度を落としても間に合わん』

『ちっ、なるべくスピードを落としてくれ』



 今度はマルスに向かって言う。



「あのドラゴンが突っ込んでくる。頑張って押さえてくれ」

「ちょっ!? 無茶の言い過ぎだ」

「お前ならできるだろ?」

「……カイルに頼られたらな。当然だ!」



 マルスはやる気を見せてくれる。

 突っ込んできたドラゴンは言っていた通り速度を限界まで落としてくれる。

 そのおかげでマルスでも防ぎきることができ、俺たちに被害なく、ドラゴンを止めることができた。



『あとはなにをしたらいい?』

『ここから先は俺の仕事だ。ちょっと待っていろ。口だけ開けておいてくれ』



 俺はドラゴンの口の中へと入る。



「だ、ダメ、カイルくん。置いて行かないで……」



 悲愴なリリアの声が聞こえる。

 しかし、俺たちも近隣住民も、このドラゴンも全員守るにはこれしかない。


 俺は光る剣へと向かうとそのまま剣を抜いていた。

 すると、その痛みでドラゴンが暴れ出し、そのまま俺はぱっくりと食べられてしまうのだった――。

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