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どうやら俺は死んだ勇者の転生者らしい  作者: 空野進


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出発準備

 夜、カイルが寝た後、リリアたち三人は集まっていた。



「どうしてカイルくんがまた危険な場所に行かないといけないの!!」



 リリアはまだ苛立ちが収まらない様子で、強く拳を握りしめていた。



「本当なのじゃ。もしまたあんなことがあったら――」

「――カイルがやりたいと言ってるんだ。それならやらせてやるべきだろう?」

「でも――」

「そんなに心配なら危険を排除したら良いだけだろ?」



 マルスは当たり前のように告げると、二人は口を開けてハッとする。



「そっか……。そうだよね。私が怪しい人が領地に入れないように結界を張れば良いんだね。大聖堂に掛かってるのよりももっと凄いやつを」

「妾が近くにいる魔物どもを消し炭にしてやるのじゃ」

「俺も知り合いに声を掛けておくか。生活が不便になっても困るからな」

「では私は物資の援助をさせていただきますね」



 突然の女性の声に三人は思わず振り返る。

 するとそこにはネグリジェ姿のミーナがにっこりと微笑んでいた。



「ミーナ姫!?」

「……何しに来たのですか?」



 リリアの声が一段低くなる。



「もちろんカイル様の寝顔を見に……ではなく、皆さんとお話ししたくて……」




 ミーナは気にすることなく笑顔を浮かべていた。



「……ミーナ姫はカイルが辺境の地へ行く事をどう思ってるんだ?」



 マルスが鋭い視線を見せながら言う。

 少し考えてはいたものの相変わらずの笑顔で答える。



「本音としてはここに残って貰いたいです。私もずっとカイル様の帰還をおまちしておりましたから。ですが……」



 ミーナが俯き言葉に詰まらせる。

 ギュッと拳を握りしめ、決意のこもった表情をする。



「カイル様はやっぱりカイル様なんです。王都で鳥籠のような生活をするより、平和を守るために自由に羽ばたかれる方が向いているんです。それに――戻ってくるという約束は果たしてくださいました。もうこの世界からいなくなられないのなら、私はいつまでもお待ちしたいと思っております」



 もうミーナの表情には影が落ちることはなかった。

 彼女の満面の笑みを見て、リリアはため息交じりに頷く。



「ミーナ様も私たちと考えは同じ、ということですね」

「もちろんです。もう二度とカイル様を失うつもりはありませんから」



 強い視線を交わし合わせる。

 そして、固い握手を交わしていた。



「私は直接は行けませんので、あとのことはお任せします。その代わり、足りないものがあったら言ってくださいね。父を脅して……じゃなくて、説得してでも支給しますので」

「それは助かります。領内全てに結界を張るのは色々と道具が必要になりますので――」

「妾も領内全てを燃やし尽くそうとすれば道具が必要なのじゃ」

「俺も最高峰の設備や人材を集めようとしたらどうしても金が必要になる。パーティ資金から出そうとしていたが」

「もちろんです。いえ、カイル様にこそふさわしいです。ぜひとも集められる最高のものを準備してください。それに必要なものは全てこちらで用意します。これは王女としての命令です」



 強い言葉を言った上で可愛らしく舌を見せる。

 その瞬間に三人は頭を下げていた。




◇◆◇




 悪夢を見ていた。

 命を落とし平和な異世界へ転生したはずが、危険な最前線へと飛ばされるという悪夢。

 慌てて飛び起きる。



「夢か……」



 目を開けるとそこは豪華な王城の一室だった。

 つまり辺境の領主に任命されたというのは事実のようだ。



「現実だったか……」



 どうなるんだろうな、俺。

 一応マルスは一緒に来てくれるって話は聞いているけど、危険な辺境にたった二人でどうにかできるとも思えない。


 一体この俺に何を期待しているのか……。

 勇者としての力か。


 手のひらを広げたり閉じたりしてみる。

 普通の人と変わらないように見える。


 おそらくは魔法とかも使えたのだろうけど、やり方はよくわからない。

 今度ソフィに教えて貰おう。



「身体くらいは鍛えておくかな」



 付け焼き刃にしかならないだろうけど、この身体が本当に勇者のものなら、体が覚えている、とかそういったものがあるかもしれない。


 せっかくだから素振りでも、と思ったが、武器の類いはない。

 ただ、冷静に考えて王城に武器を持ち込めるはずない事に気づく。


 仕方ない。簡単な練習くらいにしておこう。


 服を着替えると俺は城にある中庭へと出る。




◇◇◇




 軽く筋トレやランニングをする。


 元々社畜だった俺はそれほど体力には自信がなかった。

 それなのに、体は軽く想像以上に動くことができた。


 これがこの体の力か?

 いや、魔王を倒したほどの力があるにしては、多少運動ができる程度ともとれる。


 軽く汗を拭うと部屋へと戻る。

 すると、真っ青な表情を浮かべるリリアやソフィの姿があった。

 俺の姿を見た瞬間に二人は抱きついてくる。



「無事だったんだ。よかった……」

「し、心配したのじゃ。勝手にどこかへ行くなと言ったじゃろ」

「えっと、書き置きは残していたはずなんだけど……」



 俺は机を指差す。

 そこには確かに「中庭にいます」と書かれた手紙があった。


 でも、二人は首を横に振る。



「せめてその一言だけでも伝えてほしいの。一緒に付いていくから。難しそうなら……やっぱり一緒の部屋に――」

「これからは直接行ってから出かけるようにするから、それだけはやめてくれ。心臓に悪いんだ」

「病気!? それは大変。すぐに休まないと。ほらっ、ベッドに行って服を脱いで。私が見てあげるから」

「い、いや、そういうことじゃなくて……」

「安心して。これでも聖女だからどんな病気でも治してあげるよ。ほらほらっ、早く。あんまり遅くなると病気が進行しちゃうかもしれないから」



 もはや正気を保っているとは思えない。



「大丈夫だから。それより、そろそろ領地へ行こうと思っているのだが」



 確かに王城での暮らしは良いものだ。

 しかし、常に勇者扱いされるせいで、せっかくの平和的暮らしが重荷にもなっていた。

 体は休めても気が休まらないのだ。



「マルスくんが必要なものを用意してくれているから、それが終わったら出発するよ」

「……あれっ? リリアも来てくれるのか?」

「むぅ、当然でしょ! ずっと一緒って言ったでしょ!」



 リリアが頬を膨らませて拗ねてくる。

 あざとい仕草だが、それもまた彼女に凄くあっていた。



「妾も当然行くのじゃ!」

「そうか……」



 一人でも多くの知り合いが来てくれる。

 それがありがたく思えてくる。



「おーい、準備終わったぞ。出発するか?」



 マルスが笑顔で手を振ってくる。


――助かった。


 リリアたちの抱きつき(拘束)から逃れた俺はそのままマルスへと近づく。



「よし、それなら出発しよう」



 危険な辺境だけど、それでもここよりは目立たない生活が送れる……よな。


 安心して準備された馬車へと向かう。



「って、なんだこれ!?」



 置かれた馬車はやたら豪華な、おそらく国王が乗るようなものだった。

 しかもその後ろにはたくさんの荷物が載った馬車が用意されており、兵士たちや国王やミーナまでもが見送りのために出向いていたのだ。



「勇敢な若者たちに最敬礼」



 国王のその言葉と同時に兵士は敬礼をする。


――やっぱりやり過ぎだ。


 照れを隠すように俺はさっさと馬車に乗り込むと領地へ向けて出発していた。

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