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どうやら俺は死んだ勇者の転生者らしい  作者: 空野進


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戦士マルス

 誰かと食事を取るなんていつぶりだろうか?

 そもそも最後に暖かい料理を食べたのがもういつか思い出せない。



「カイルくんの料理、美味しいね」



 右隣でリリアが笑みを浮かべながら野菜炒めを食べている。



「カイル、あまり食ってないんじゃないか? 妾のもあげるのじゃ」



 左隣に座っているソフィが人参っぽい野菜を俺の口へと運んでくる。



「おいおい、それはお前が嫌いなだけだろ!? でも、カイルも食わなさすぎだ。丈夫な体を作るには肉を食え。ほらっ、どんどん食え」



 マルスが俺の皿に肉を山盛り乗せてくる。

 いつの間にかベーコン以外の肉も焼いていたようだ。



「ダメだよ、マルスくん。お肉ばっかりだったら栄養が偏るんだよ。お野菜も入れてあげるね」



 リリアがにっこり微笑むと山盛りの野菜炒めが隣に置かれる。



「それなら妾がパンを用意するのじゃ」



 更に隣に山盛り載せられたパンの山が出来上がる。



「流石にこれは多すぎるぞ。食べ過ぎで動けなくなる」

「動けなく……!? そ、そうだよね、多すぎたよね。ごめんね、カイルくん。私、やり過ぎだよね……」



 リリアが慌てて野菜炒めを自分の皿へ移している。



「すまん。調子に乗ってやりすぎた。余った分は俺たちが食うから安心してくれ」

「わ、妾が悪かったのじゃ。許してほしいのじゃ」



 やたら大袈裟に謝られる。


 距離を測り兼ねてるのかもしれないな。


 会ったばかりの転生者、なんて対応も難しいよな。

 ここはなるべく俺から歩み寄らないといけないな。



「あははっ、大丈夫だ。むしろ気にかけてくれて助かるよ」

「で、でも……」



 リリアが申し訳なさそうな顔をするので、そのまま皿に載せられたパンを口へと放り込む。



「もごごっ……」

「ほらっ、遠慮なんてしてたら飯も不味くなる。もっと楽しく食おう」



 三人は大きく目を見開く。

 まず最初に反応を見せたのはマルスだった。



「そうだな。せっかくの飯を不味く食いたくないよな。お前ら、カイルの頼みだ。まさかできないなんて言わないよな?」



 二人は何度も首を縦に振っていた。


 それからはみんな普通に戻り、歓談しながら食事することができたのだった。




◇◇◇



 その日の夜。

 知らない場所での生活は意外と疲労が溜まったようで、食後すぐに眠ってしまったようだ。


 両腕に二つの柔らかい重みを感じて目が覚める。



「あれっ、俺いつの間に眠ってしまって……って、えっ?」



 ガッチリと掴まれた右腕には薄い服越しに柔らかいものが当たっている。

 微妙にはだけた服のまま眠っているリリアだった。


 思わず顔を反対に向ける。

 そちらには涙の跡が残るソフィが、強く腕を抱き締めていた。

 まだまだ子供にしか見えない彼女をみているとほっこりとして笑みが浮かぶ。


 もちろんこんな状態を誰かに見られようものなら事案として捕まっても仕方ない。

 幸いなことにこの場には誰もいない……。


 そこで扉が少し開き、中を伺う視線に気づく。

 そちらを見るとマルスと視線が合う。

 一瞬沈黙が場を襲うが、マルスはにっこり微笑むとそのまま何食わぬ顔で去って行く。



「ちょ、ちょっと待ってくれ。誤解だ!」



 慌ててその後を追いかけようとするが、腕を掴まれているために動けない。

 なんとか二人から抜け出すとマルスの後を追う。




◇◇◇




 マルスは外で涼んでいた。



「ここにいたか……」

「――久々に楽しい一日だったな」



 マルスは誰に言うわけでもなく、独り言を呟いていた。



「それも全部カイルのおかげだ。ありがとう」



 頭を下げてくるマルス。

 相手だけに頭を下げさせるのはなんだか落ち着かず、俺も同じように頭を下げてしまう。



「俺の方もわざわざ迎えに来てくれてありがとう」

「――これからどうするつもりだ?」

「まだ全然何も考えてないな」

「一応カイルが戻ってきたら王城へ連れてきて欲しいと言われている。ただ、お前が嫌なら俺たちは全力で抵抗を――」

「城か……。確かに定番だもんな。行ったとしても危険はないんだよな?」



 国王に会うのは転生ものの定番ではあるが、それと同時に国王が裏切り者の敵というパターンも多い。

 ただ、マルスは首を横に振る。



「民のことを一番に考えている良いお方だ。ただ、お前が行った場合は恩賞を贈られるだろうな。おそらく爵位と領地だ」

「何もしていないのに、か?」

「……そうか」



 マルスは空を見上げて大きく息を吐く。



「もしいらないというのなら俺たちが全力で止めるが?」

「国王相手にそんなことができるのか?」



 マルスは目を閉じる。

 再び開くと敵を威圧する鋭い瞳に変わっていた。



「カイルのためなら何でもする。それが俺の誓いだ」



――どうしてそこまでのことをしてくれるのだろうか? 会ったばかりの俺に対して……。



「こんなことを言われても困るよな。カイルは自分のやりたいことをしてくれたらいいってことだ」



 困ったように苦笑いを浮かべて頭を掻いたあとすぐに笑みを浮かべてくる。



「それでカイルはどうしたい?」

「俺は――」



 出会ってほんの一日。

 しかし、俺のことを心配してくれる彼らを困らせるようなことはしたくないと思った。


 ただ、そうなると恩賞を受け取る方向になる。


 おそらくマルスたちは王城まで俺を連れてくるように依頼を受けているのだろう。

 マルスの予想が当たってるかどうかは行ってみたいとわからないが――。



「もし俺が領主に任命されるとしたら、そのときはマルスも一緒に来てくれるか?」



 たった一人で誰もいない場所に送り込まれるのはいくら何でもハードルが高い。

 一人でも知り合いが付いてきてくれるなら助かるのだが――。



「ははっ、お前が嫌と言わない限り一緒に行くぞ」



 力強い瞳を向けられる。



「それに俺だけじゃなくてあいつらも行くと思うぞ?」

「そうなのか? 聖女と賢者だろ? やることがあるんじゃないか?」

「置いていこうとしたら、また泣きつかれるぞ?」

「あー……」



 今日も何でも泣かれたのだ。

 確かにありそうだった。



「今の話は内緒にしててくれ」

「……それよりそろそろ戻らなくて大丈夫か?」

「どういうことだ?」

「一緒に寝てたお前がいなくなったらどういう反応してくると思う?」

「……いや、そもそも一緒に寝た覚えがないぞ。あいつらが勝手に潜り込んできただけだ」

「その割にはまんざらでもなさそうだったぞ」

「やめてくれ。犯罪は起こすつもりはない」

「相手から入ってきたんだから合意の上だろ?」

「子供と寝たなんて犯罪以外の何物でもないだろ?」

「あー……」



 マルスは苦笑を浮かべる。



「ソフィのことか。あいつはこのパーティの最年長だぞ」

「……えっ!?」

「よかったな。両手に華だぞ」



 肩を組まれ、楽しげに笑いかけてくる。


 旧来の友人はこんな感じなのだろうか。

 前世でもいたことがないので、判断が付かない。


 それからしばらくマルスとたわいのない話をしたあと部屋へと戻る。

 すると、目に涙を浮かべたソフィと光の失った瞳をしたリリアが待っていた。



「ずっと一緒にいてくれるって言ったのに……」

「妾を置いて行かないでほしいのじゃ……」



 そのあまりの迫力に俺は頷くしかできなかった――。

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