教会にご報告…?
初めはサンバの衣装のアラーザ(背中の羽)に見えた。
よく見るとハート型のフキダシが分厚く大きくなって捩れて、色も赤やピンクなどの可愛らしい色でもなく紫や黒、土留め色に染まっていた。
それが、刺さっている本人達の頭上を遙かに超えてユラユラ揺れているのである。
極めつけは……フキダシの一つ一つに、顔が付いていて、
それは開いた松ぼっくりにも似ていた……。
◇◇◇
「ギモ゛ヂワ゛ル゛イ゛!!!!」
「何が!!??」
いきなり泣き叫んだルカにお姉さんはビックリしていたが、視線の先に居た男性諸君は自分達への言葉に捉えてしまった。背後の物体に向かって叫んだのだが、皆には見えないのでショックを受けて胸を押さえてしゃがんでいた。本当にごめんなさい。
別に集合体恐怖症でもなかったはずなのに気持ち悪さと鳥肌がすごい。どうしたらいいのコレ?尻に刺さったフキダシなんてノランの赤いのしか見た事がないので対処の仕方が解らない。
ねえ、ギフト!仕事して!
…リーン……ゴーン……リーン……ゴーン……
「?何か、音が……鐘か?」
「ウチの教会には鐘がないだろ」
「いや、確か鳴らないけど一つだけ森側にあったはず」
突然鐘の音が鳴り響き始めた。高くて軽やかな音じゃなく重くて暗い音なので、ルカの目の前の禍々松ぼっくりとマッチしすぎてすごい怖い。止めて。
リーン…ゴーン……リーン…ゴーン…… ペタ…
「エッ?何?」
「は……?」
何か聞こえた……昨日聞いた気がする。
リーン……ゴーン……リーン……ゴーン…… ペタ…ペタ…
「……………」
「……………」
「……………」
「ちょっ、こっち来てない……?やめて?」
リーン……ゴーン……リーン……ゴーン…… ペタ…
お、お前は……!
「ルカちゃん!こっち!近寄っちゃダメよ!」
庇ってくれようとしてるお姉さんごめんなさい。今はヤツが救世主なんだ!多分!
ルカはイヤなBGMと共にやって来た河童に泣きながら近寄った。どうやらこの場にいる全員河童が見えてるようだ。
「うっ…うっ…あの気持ち悪いのどうすればいいの…?」
「……………」
泣きながら禍々松ぼっくりを指差すと、河童は無表情でショルダーバッグからキュウリを取り出して振り始めた。
シャラシャラシャラシャラ………
どう見てもキュウリなのに光を放ち、キラキラエフェクトを撒き散らしながら広がっていった。そのキュウリ型サイリウムどこで売ってんの?
「は?コレは…?」
「結界…いや、浄化の魔法に近い…気がする」
シャラシャラキラキラと広がり続けてもう教会の敷地全てに行き渡ったようだ。なんか建物の向こうから誰何の声が上がってる。もしかしてこの光でアレをやっつけてくれるのかと期待したが、禍々松ぼっくりはワッサワッサと男性陣の背後で揺れてた。
ただ、薄ら暗かったのが晴れた気がした。そして目の前のお姉さんが一番に気付いた。
「ンギャアァァァァァアッァアァァ!!!!」
「っは?…ウギャアァァァァァアアァァァ!!!」
「オワァアアアアッッッッッァァァァア??!!」
「ドゥォォオオオオオオォオオ!!」
「……………ヒッ??!!!!!」
「ヴァアアアアアアアァァァ!!??」
「被害者増やせなんて言ってないでしょ…」
「……………」
どうやらあの光のおかげでルカと同じように見えるようになってしまい、自分達の背後にようやくヤベェもんが付いてる事に気付いた男性陣。
硬直する人、叫ぶ人、離れようとして自分に付いてる事に気付いて青ざめる人…かわいそう…。ルカは自分より恐慌状態の人を見ると冷静になるって身を持って知った。
この教会に居るのは、ただ他より綺麗だったり可愛かったり美しかったりってだけで、他人に迷惑かけられて出家した人達がほとんどだ。あの尻のフキダシは今でも彼等を苦しめている奴らなんだろう。多過ぎない?どうにかならない?河童くん。
キュウリを食べながらバッグに手を突っ込んでる河童にチラリと視線を向けたらニュルリと取り出したるは自室に置いてきたはずの杖(鞭)。なんでや。
そっと渡されたけどルカは痔の治療しかした事ないのだ。知ってるでしょ。
「……………」
更に取り出したのは薄ら虹色に光るソフトボール位の玉だ。両手で自分の頭の上に乗せようとしてるけど…無理では?危ないでしょ?杖(鞭)を腋に挟んで玉が落ちないように横から手で囲って補助した。
「う、浮いとる…」
河童の頭上で光りながら浮く虹色の玉。テラシュールである。気付くと周囲が静かになってこっち見てた。背後は見たくないもんね。
「……………」
「……………」
誰もが黙り込む中、河童が浮いてる玉にノックする。
『………杖を』
神様の声に驚いて玉を二度見したがとりあえず杖(鞭)を両手で掲げ持った。視界にいる大人達が『鞭やろ……』と目で言ってた。そんな事は知ってる。
『びっくr「却下で」……』
周囲が凄い目で見てくるが知らん。全裸で白目むいて尻を叩くなどごめんだ。
『………』
「わっ…!」
杖(鞭)のバラついた部分が突然光り出して変形し始め、ミョンミョンミョンみたいな感じで一本になった。具体的に言えば某妖狐の薔薇鞭の棘が無いバージョン(1m)。…どうしろと?
「っ!」
「わっ」
「ぅお?」
『杖で巻きなさい』
神様は難しい事言うな…。
ミゼラ様とテレンス様と信徒のおじ様が立位体前屈させられて、禍々松ぼっくりがワッサワサ花瓶から飛び出た花(綺麗な表現)みたいな状態になってる。コレを杖(鞭)で巻く…?直径三メートル位あるんだけど…。
『スラップバンドみたいに』
形状記憶合金仕込まれてんのか!この杖(鞭)!!
一番直径が短いであろう尻付近なら一周ぐらいはできるかも知れないと思い、禍々松ぼっくりをあまり見ないように目を逸らしながらミゼラ様の尻に近寄った。重さは感じていなさそうだが、この体勢がきついようで「早く終わらせてくれ…」みたいな目で見つめられた。
行きます。
パシーーーーン!!!シュルシュルシュル………
……今、河童とミゼラ様以外の気持ちは一つだ。この…形って………
「ちn「静かに」」パシッ
「男性k「蚊がいた」」バシッ
「「………」」
ルカの耳に入らないようにしてくれたお姉さんとテレンス様には悪いのだが、ちゃんと知っております。それよりも何なんだこのセクハラは。
尻付近に打ち付けたこの杖(鞭)は衝撃で巻かれた瞬間先端がシュルシュルと伸びていき、隙間無く禍々松ぼっくりを包んでいった。はじめはラグビーボールみたいに楕円形だったのに、てっぺん辺りでキノコの笠みたいな形に包まれ始めた。本当に何なの?
『柄を引っ張れば捥げます』
思わず河童の頭上の玉を見た。河童はコッチ見てる。全員コッチ見てる。
「……オラァアアアァアア!!!!」
─────ボキャッ
《ギャアァァァァァアッァアァァアアアアアアアアァァァ!!!》……ゴロン
フゥ…すっきりした…。
禍々松ぼっくりを捥いだ後、断末魔の叫び声を上げて土留め色のバスケットボール位の玉になった。触りたくないのでそのままにしておいたら河童がバッグにしまってた。どうぞ持ってってください。
ミゼラ様の大臀筋からは綺麗さっぱりハート(?)のフキダシが無くなっていた。ただ、切れ痔(軽傷)のフキダシは出てたので後で治療させてもらおうと思う。今の杖(鞭)は大臀筋用だからね。神様が残りの信徒を立位体前屈にさせてくれたのでさっさと捥いでしまおう。
◇◇◇
目の前の松ぼっくりを全部捥いだ後は、いつの間にか喋る玉をバッグにしまった河童がルカの手を引き、敷地内にいる禍々松ぼっくりを生やした男性の救助に向かった。
尻から生えたモノに怯え、嘆いていた所に未知の生き物と鞭を持つ五歳児が近づいて来るので例外なく逃げられた。残念ながら神様はもう帰ったらしい。
「そのままでいいんですか?」
と、領地で一番幼いルカに冷静に語られて泣きながら捥がれた。かわいそうに……。
◇◇◇
全ての松ぼっくりを捥いだ後、玉を回収し終えた河童はルカの杖(鞭)をつかんで柄の底を指した。何かスイッチボタンが付いてた。こんなモノ付いてただろうか?押せって?ポチッ
シュルシュルシュルシュル……パサッ
杖(鞭)がキャットオブナインテイルに戻りました。こんな機能いつ付いた?
不思議そうにしてたらバスケットボール玉を指差されたので、これもポイントなのかと気付いた。ファンタジーってすげー。
河童がキュウリを取り出して振り始めた。さっきも見た光景だが今度は光がキュウリに集まってきてる。敷地内に広げた光を回収してるのかしら?知らんけど。そのキュウリも食べるんだろうけどお腹壊さない?
……リーン…ゴーン…
あの鐘の音は何かの儀式なのだろうか。ウチに来た時は無音だっただろ。
………リーン…ゴーン………ペタ………ペタ
帰るのか…。
ギフトに仕事しろと願ったら来てくれたんだよな。急な呼び出しに応じてくれて本当にありがとう。新たな杖(鞭)の使い方を覚えたのでいっぱい尻子玉集めるから待っててくれよな!
「……」
河童は森の方へと帰って行った。やっぱり不思議な生き物ってのは森に住んでるんだな……。
いや~今日はホント色んな事があったな。こういう日はゆっくり湯船に浸かって早めに寝るのが一番だ。さて、帰ろう。
「……どこに行くのかな?」
「……全てを報告してもらうまで解放する気はないよ」
ヤンデレみたいなセリフが聞こえた。




