ギフトを使う
腹は括った。
突っ込みどころが多すぎて気付かなかったけど、昨日のお告げの声全部同じ声だった。そもそも神様のお告げってそんなファンタジーな事経験してしまったら信じるしか無い。
危ない薬も精神的にヤバい事もないこの身で頭に声が響くなんていうあり得ない事が起こってしまったのだ。隣の餅も食ってしまった。
ならばもう、これから起こるルカの奇行は神様のせいだ。だって呪文は神様オリジナルのようだし、アイテムは多分…超越した存在とは認識が違うのだ。だって明らかに鞭なのに杖って言うし。それに、ギフトがもう……個性的だし。
「行くか……」
早速杖(鞭)を片手に父の元へと向かった。いつも薬を飲むのは食後だから今ならまだ痛みを感じているだろう。実験みたいで悪いが治療のためなので許して欲しい。
「おはよう父様……」
「ルカ!おはよう、もう大丈夫そうかい?頭とか痛くないか?」
「ありがとう、だいじょうぶ」
「昨日は全財産が入った財布を落とした顔をしていたから心配で……」
どうやら株で財産溶かした系の顔を晒しながら帰宅したらしい。記憶にございません。
「父様あのね……」
「ん?」
もじもじしながら父の背後にまわる。確認は大事だ。
父{『病名:痔ろう(中傷)』
『痔・attack!!』
「あいたー!!」
中傷に驚いてついやってしまった。大臀筋をヅンヅン!!って感じでつついたら尻を押さえてうずくまってしまった。患部が刺激されてしまったのだろうか。ごめんね父よ。
呻きながらしゃがみ込んだ父の尻を確認しようと思ったら
コロン……
直径十センチ位の薄ら白く光る玉が父の尻の下に転がっていた。生んだ……?
触りたくなさ過ぎるが踏んだりしたら危ないので、服の袖を伸ばして直接触らないように回収した。そして尻を確認してみると、フキダシが消えていた。
おお……治療されている。つまり父が痛がっているのはつつくのが強すぎたから、という事なんだろう。次からは優しくやろう。
「ル…ルカ、何てことをするんだ……」
「まだ痛い?」
「え?痛………くない?え、何で?」
すごい不思議そうな顔でルカを見た。父は痛み止めを飲まずに痛みが無くなったので疑問を抱いてるんだろう。このまま母の所に行きたいが、しゃがんでいるのですごい間近で父が見てる。ルカが少しでも動いたら反応して飛びかかってくるかも知れない。怖い。
「あのね…」
「うん」
「実はね……」
「うんうん」
果たして《全ては尻神様のおかげなのです》と告げたらどんな事になるだろうか。
「あなた……?」
「フレイナ、どうしたんだい?」
「それはこちらの台詞です。何やら叫び声が聞こえて……何かありまして?」
「ああ……」
どう伝えるか迷っていたら母とファニーがやって来た。丁度いい。杖(鞭)を握りしめた。
ルカが一番治療したいのは母だ。今も痛いだろうから早く治してあげたい。
「ちょ、待ってルカ。同じ事する気かな?やめて?」
「大丈夫、母様には優しくつつく」
「どういう事?優しくても良かったの?何で父様の時はあんなに勢いよかったの?」
「だれでも最初は初心者」
「そうだね??」
父に捕獲されてしまって母に近づけない。離してほしいんだが?
「二人ともしゃがんで何をしているの……マリウス、あなたしゃがんで痛くないの……?」
「いや、それが……」
どう説明すれば良いか迷ってルカから気がそれた。今だ!
『痔・attack!!』
「今なんて?」
「そんなに優しくできたの!?」
またしても何かが転がり落ち……今どこから……いや、深く考えてはダメだ。回収。フキダシは……よし、消えてる。後はファニーも治してあげたいのだけど……二人よりも隙が無いというかルカと夫妻を注意深く観察してる。
「フレイナ、痛みはどうだい?」
「え……嘘、まだ飲んでいないのに……」
「やっぱり……」
最優先順位の二人を治療できたので少しほっとした。さて、告白の時間だ。
「ルカ、今何をしたの?教えてくれる?」
「……あのね、全ては尻神様のおかげなの!!」
「「???」」
「熱測りましょうか、お嬢様」
「待ってほしい」
やはりダメだった。とりあえず【尻】のギフトの事だけ言おう。今はそれしか分かってないのだから。
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「【尻】というギフトを授かって、使い方を神様から伝えられた、と……何故ピンポイントで尻なの……?」
「神様に聞いて」
「さっきの呪文だったのね。何て言ってたの?」
「聞こえなかった?」
「聞こえなかったのではなくて、聞き取れなかった…のかしら?」
ルカは伝えられた呪文をそのまま口にしたつもりだが、知らない国の言葉に聞こえたそうだ。そもそも頭おかしい呪文なので、意味など分からないでいてほしい。
ギフトによる恩恵だと理解して貰えたので、ファニーにも治療させてほしいと伝えたら感激された。父は急いで家令のジュールを呼んで彼の治療もお願いされた。
「いや~こんなにすごいギフトがあったなんて知らなかったな」
「ギフト文字はほんの少ししか解明されてませんからね」
「文字は分からなくてもお告げで分かるんじゃ無いの?」
「さっきみたいに聞き取れないのよ。『~を授ける』みたいにギフト名だけ」
「お嬢様は【尻】だと聞こえたのですか?」
多分転生者だからじゃないですかね。……そんな事言えないが。
「…………二文字だからそう聞こえた気がした」
「そっかぁ、それで合ってたんだね。あっ!ギフト文字もこの一文字は解明できたって事では!?すごいなルカ!!」
「確かに!新たなギフト文字の発見ですわね!領を挙げてのお祭りをしなくては!」
「お二人とも落ち着いてください。お嬢様の偉業を称えるパーティーが先です」
「どちらもやめてください」
家令の何一つ落ち着いていない言葉に思わず突っ込んでしまった。こんな事を偉業にされても困るのだ。ファニーも二人を止めずにうなずいている。ここは主人を諫める所ではないのか?
「だって辛い痛みから解放してくれた素晴らしいギフトは、ルカがきちんと意味を理解して正しく使ってくれたからなんだよ?」
「そうよ、解明されているギフト文字は医療や薬学などの正しい知識が必要なモノばかりなの。ギフトの使用にはその文字の意味を理解する事が前提なのよ」
とても辛い。意味はともかく《自分は尻を司る》という結論に至った結果がこれだ。素晴らしい人間を見る目で見ないでほしい。
「だからとってもすごい事なんだよ。本当にありがとう、ルカ」
「ええ、ルカのおかげで痛みが無くなったの。だからやっぱりパーティーを「だったら……弟か妹がほしい。なんなら両方」
「「ん?」」
「お祭りもパーティーもしなくて良いから弟か妹がほしいよ。ダメ?」
「アラ」
「そうだなぁ~」
上手い事話題をそらしてみたが二人とも満更じゃなさそうだ。そういえば痔の痛みで性交できない事もあるって何かで読んだな。よし、子供の無邪気さで押し通そう。
「弟と妹と一緒に遊びたい」
「そうねぇ」
「今は領地にお嬢様しか子供はいませんものね」
「あ、そうか。隣の伯爵領の学校に通うから向こうで下宿してるんだっけ……」
「ん?あ……」
杖(鞭)がキラキラと光りながら消えた。ついでにポケットにしまった筈の謎の玉5個もどっかにいった。何だったんだ。それよりそろそろ腹が……グ~~~
「消えた……神様が回収したのかな?」
「はぁ……目の当たりにするとやっぱり驚くわね」
「では朝食にいたしましょう。ハンスが待ちくたびれてますよ」
「おなかへった」
「アラ大変。早く行きましょ」
よし、有耶無耶になった。朝から一仕事終えたぜ……。今日はゆっくり休もう。




