教会のご報告
この教会内には図書室が二つある。
一つは一般開放されていて誰でも使える普通の図書室で、もう一つが先程テレンス様が言ってた『愛の蔵書室』という創立時から存在する教祖の私室だ。
初めてこの部屋の前を通った時に木でできたプレートを読んで、部屋に『花の~』とか『夢の~』とかつけてんの?ヤベぇな……と思った。思ったが自分に強制してくる訳ではないならケチつける事でもないなと、スルーして入ってみた。
小さめの図書室と言える程の蔵書に興奮しながら一番側にあった本に手を伸ばして開いた瞬間、ルカに凄まじい衝撃が走った。
『親友捕獲計画』
日本語で書かれたソレに驚愕しながらページを進めると、筆者は元日本人で乗っていた飛行機が墜落している時に神様だか管理人だかを名乗る超常的な存在と取引してこの世界に転移してきたんだそうだ。
その取引内容が…同じ飛行機に乗っていた転移する直前まで一緒にいた親友をコッチの世界に記憶を持ったまま転生させる事だった。
まずはもう助からない状況で親友が痛み無く即死できるようにしてもらい、自分が転移した世界を復興するので安全になってから転生させてほしいと願い、更には世界を立て直す役目が終わったら親友が生まれるのと同時期に自分も転生させてくれという欲望に忠実すぎる内容だった。
ここで筆者=教祖だと気付いた。
読んでいて分かったのは親友にその気が無い事。出合った時から片思いし続けて二十年以上だが、親友は人間不信気味だった。随分モテる人だったらしく、しつこく言い寄られたりストーカー行為があったりと男女問わず被害を受けていたそうだ。
筆者は精神的にも物理的にも親友を支え続けた。親友には絶対に言わずに裏から手を回して色々解決したりしたそうだ。詳しく書かれていないからこそ余計に怖い。何したんだ筆者。
筆者自身モテる人だったようで遇い方も上手く、不器用で繊細な親友に随分と羨ましがられていたみたい。その時の絡みが今も股間を刺激すると書かれていた。バカでは?と思ったがよく考えたらこの人ずっと片思いで友人扱い……よく我慢したねと褒めて差し上げたい。
日本では世間や周囲がうるさくてどうしても一歩踏み出す事が出来なかった。自分だけの問題じゃ無く、親友が嫌な思いをすると思うと怖くて、そして拒否されたら自分が何をするか分からないのが一番の懸念材料だった。コイツ自分を分かってるな。そして怖い。
この世界を立て直してる合間にちょこちょことテコ入れして、教会で同性婚OKにしたり男女平等を広めて色々スムーズに行くようにしたり、アレする時に痛くないように薬を開発したりとやりたい放題である。
全ては転生後の親友との愛の生活のために……。
ここまで読んで一度本を閉じた。まず思ったのがコイツ受け入れて貰えるのが当たり前だと思ってない……?だった。
だって前世で親友のまま死んだわけで、記憶を持ったまま転生するならやっぱり親友のままでしょ?人間不信のままでは?そんな状態で元親友に言い寄られたら極・人間不信に進化しない?大丈夫なの……?
◇◇◇
と、思った所でテレンス様が来て「ここはまだ入っちゃダメだよ」と言って本を片付けられたんだった。
─────これが図らずも真実を知ってしまった時の事である。
それ以降は続きを読みたくて何とか入ろうとしたのだが一年に一回位しか成功しなかった。少しだけ読んだ続きが何かもう…、転生後はひたすらイチャつく妄想が綴られていた。悪漢から守って感謝のKiss…を送られてそのまま…みたいな。Kissって書くな。
……とりあえず教祖の思惑は誰にも言わないでおこう。確かに身を粉にして働いてくれた人だけど、実は最愛(片思い)の親友との転生後のランデブーの為に頑張ってたなんて言わない方が誰もが幸せだろう。伝説は伝説のままで良いじゃないか。
「ルカちゃん?」
教祖の事を語っていた二人が静かになったルカに気付いたようだ。
多分ルカが転生者である事を隠したがってると思って『教会は転生者の味方です』って伝えたくて教祖の話になったんだろう。
「……教祖様のおかげで今こんなに平和なんですね」
「ああ、そうだよ。だからルカちゃんも転生者だと言う事で何か苦しい事や辛い事があったら私たちに相談してほしい」
「やってみたい事や分からない事も遠慮なく聞いておくれ。力になるから」
それはとてもありがたい。まだ五歳というのもあるけど、いずれこの世界の常識と前世の常識がごっちゃになって変な事をしでかしそうなので。
◇◇
「じゃあ早速ギフトの事なんですけど」
「あぁ……」
「【尻】ね……」
「もう一個の方が「待って、言わないで」…?」
報告しようとしたら止められた。もしかして早速常識違いか?
「今ちょっといっぱいいっぱいだから…」
「更に特殊なギフトはまた今度にして…」
「更にとは…?」
まあ気持ちは分かる。ルカだって【尻】って何だよと悩んで悩み抜いた後は疲れて寝たからな。脳みそ使い過ぎたのと現実逃避したくて。
「本来『ギフトを授ける儀式』は魔法を使えるようにするきっかけのもので」
「私も最初はそう思ってました」
「それと同時に転生者を見分けるモノとして、この世界に必要な能力を与えるためのモノを神から贈られる為の儀式である……というのが教会の見解なんだ」
…確かにそんな感じかも。儀式をすれば魔法が使えるようになれるって浮かれてたし、ギフトを使っている人なんて見た事もなかったから。
特にインフラのギフトは多くに与えて使わせるんじゃなくて、厳選してまともに使ってくれる人を選んでる感じ。教会が見張ってるみたいなモノだし。
簡単に言えばこの儀式は転生者を見つけ、世界にとって使えるギフトは使わせ、その他はただの魔法が使えるようになる為のトリガーってことか。一石三鳥ですね。
「なのでギフトを実際に使用しているのは【治療】や【建設】などの教会に伝わる意味と内容が判っているモノだけなんだよ」
「それ以外のギフト文字は誰にも読めないし、文字の研究は禁止されているんだ」
「?」
「つまり【尻】という新しいギフトが使えるというだけでも目立つのに、もう一つありますってなったらどうなると思う?」
「とても……目立ちます」
「教会の人間は転生者の情報を外や信徒以外の前で口にする事は制限されているから言っても大丈夫ではあるけど、それ以外は…特にルカちゃんは貴族令嬢だから色々とあるんじゃないかな」
「そういった事に使われたくないのなら、もう一つのギフトの事は教会の人間以外には言わない方がいいと思うよ。そういえば御家族の方には伝えたの?」
「【尻】だけは。治療したかったから」
「そうだね。治療できる医療系のギフトだもんね」
「貴族令嬢だからって何かあるんですか?」
「政略結婚とか、珍しいギフトの恩恵を受けたがるとか?」
ラノベでよくある特殊能力を持つ令嬢と結婚すれば云々ってやつか?正直ルカは今世でも結婚したいと思わないんだが。ウチの両親は無理に婚約させようとはしないだろうから考えた事無かったけど、こんな能力持ってると目をつけられるってワケか。
確かにもう一つの【石ころ】は隠し技として誰にも言わないでおいた方がいいかも。教会が無理に聞かないと言うなら何かあった時の為の裏技としておけば、万が一貴族のあれやこれで面倒くさくなって、全てを捨てて旅に出る事になったらすごい役に立つだろうし。………おや?
転生者である事も、ギフトが二つある事も教会が把握している。
そして全面的に転生者の味方である。
これは勝ったも同然では?
「だったらギフトを使って生活費を稼ぎ、教祖の残した蔵書を読みふけるなんとも優雅な生活がしたい」
「……………」
「……………」
思わず口から出た願望に二人がコッチ見てる。でも本心なのだ。こんな生き方したい。
今後産まれて来るであろう弟か妹が家を継ぎ、その補佐として頑張る姉。そんな立ち位置になりたい…。
「ギフトを使って生活費を稼ぎ、教祖の残した蔵書を読みふけるなんとも優雅な生活がしたいのです」
「に、二回も言った…」
「それは【尻】を使って、と言う意味かな?」
「そうです。領民には無料で、他領の人間や貴族からは料金を取ります」
「計画立ててる…」
「痔の治療がどういうのかは知りませんが、痛み止めを飲み続けるより一発で治る方が良いのでは?」
「……………」
前世では痔の特効薬と言えば例の薬があるが、完全に治るかって言われたらそうではなさそうだし…もしかしたらコッチの世界では万能薬とかあるのかな?
「…確かに良いかもしれない。尻を治療するのがバレたくない人って多いから、【尻】ギフト持ちのルカちゃんに表立ってちょっかい出す事もしないでしょう」
「貴族とか金持ちの治療の場合は何らかの誓約書にサインしてもらいましょう」
「とても素晴らしい考えだね」
教会では怪我人や病人を治療する為にギフト持ちか、治癒院という看護学校や医大のような学び舎を卒業した信徒が常駐する。ブラント男爵領のこの教会にも三人いる。
そして二ヶ月に一度健康診断を行っており、何回かに分けて問診や体の状態を確認して、異常があれば治療に入る感じだ。
この時の問診で痔であるかを確認して確実に治る事を伝えれば、治療に協力してくれるかも知れない。まずは領民の尻に平穏を与えたいと思う。
それが上手くいけば世界各国にある教会のツテで尻がヤバい患者を紹介してもらって、治療して尻子玉と代金をいただく………素晴らしい。
なんかやる気満々なミゼラ様とテレンス様と一緒に先ずはアリ一匹入れないような隙の無い誓約書を作ろう。
【尻】をくれた神様ありがとう。コレを使って素敵な『ゆったり転生者生活』を満喫したいと思います。




