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ルカ・ブラントのギフト  作者: ゴンザレス
第一章

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11/11

知ってた【閑話】



 ブラント男爵家の一人娘、ルカ・ブラント。


 ギフトを授ける儀式によって『転生者』である事が判明した。

 しかしブラント男爵領のアーステラ教会の全信徒は、儀式の前から彼女は『転生者』であると確信していた。



◇◇



 あれはルカが三歳の頃、隣のアデラス伯爵領にある教会に助勢を求められて、司祭であるミゼラと助手としてマレーネが行く事になった。

 突然の事だったので朝から忙しなく出発の準備をし始めた時、いつものようにルカがやって来た。


「みじぇらしゃまどこいくの?」


 舌足らずな声にちょっとだけ騒がしかった空気が和んだ。本当だったら今日は二人で領地を散歩する筈だったのだが、急遽隣領へ行かなくてはならなくなった事に謝意を示すためルカを抱き上げた。


「アデラスの教会で困った事が起こったらしくてね、どうすれば良いのか判らないから助けてほしいと言われたんだよ」

「?ハゲデス?にはししゃいしゃまいないの?」

「ッンフ!」

「ブフッ」

「…ゴフッ…いや、まだ就任…司祭になったばっかりだから判らない事がいっぱいあるんだよ。だから助けに行かないと皆困ってしまうんだ」

「んむぅ…」


 下唇を突き出して約束を守ってもらえない事に怒ってます、と言う態度を見せる。見せられた側としては可愛いのだが、それでもこちらの方を優先しなくてはならないので最終兵器と呼ばれている助祭にルカを渡した。


「めがぁぁぁ!」


 テレンスの顔の美しさを直視できない子供は両目を押さえて体を仰け反らせた。女性の信徒はこんな麗しい顔を子供の時から見ていたら理想が高すぎて結婚できなくなるのでは…と心配していた。


「うぅ…まれーにぇしゃんもいくの?」

「ええ、女性の意見も聞きたいと言われたの。だからご本はまた今度ね」

「んむぅぅぅぅ」


 散歩が終わった後は読み聞かせだったのに約束した二人がそろって出かけてしまう事に不機嫌になってきた。テレンスの肩に頭突きし始めたので見かねたカドリエールが代わりに持ち上げた。


「オイこらしょーがねーだろ、ミゼラ様が行かなきゃクソみてーな男に罰を与えられねーんだから」

「カドリエール、やめなさい」

「ばちゅ?なんで?なにしたの?」

「……………」


 ここにいるのは全員聖職者なので涙目で質問する幼女に嘘などつけなかった。


「あ~…えっと」

「ルカちゃんあのね、その男の人はたくさんの女の人にひどい事をいっぱいしたの、神さまに怒ってもらうだけじゃ許せないってみんな言ってるの。だからその罰を決めるためにお話し合いをしに行くのよ」


 子供に詳しくは言えないが、連続婦女暴行犯を捕まえたがこのクズに与える罰が軽すぎて許せないと言う声が殺到していた。アデラス支部の司祭は就任したばかりでまだ親しい相手がおらず、しかも助祭も引退したばかりでこの様な声が上がってしまって混乱した。


 なので朝早くから各教会にある通信機で一番近くにいる司祭に助けを求めた。それがこのブラント支部の司祭であるミゼラだった。


 正直そんなクソは全員でボコボコにして回復を繰り返せば良いのでは?との意見も出たがそんなん甘いのでは?という女性側の意見に男性陣は口を噤んだ。そもそも被害者が女性なのに男性が判決を下すのはおかしいだろうが、と言われ更に身を縮めた。


 軽犯罪や冒険者達の喧嘩などは衛兵によって判決が下されたりするが、被害者が多かったり規模の大きい犯罪だったりすると教会が罰を科す事がほとんどなので、新任と引退のタイミングが悪かったと言える。できない事もないが誤った判決を下して後の遺恨が残ったら目も当てられない。


 優し目に言ってくれたマレーネに便乗して宥めようとしたカドリエールはルカを二度見した。



「………は?」



 音が消えたと錯覚する程その声は響いた。

 その声を発したルカは先ほどまで涙目で顔を顰めていたはずなのに、ほんの少しも感情が見当たらない程の無表情だった。


「………男が大勢の女性に?暴行を加えたと?それは性的に?」


 誰もがぎょっとしたが余計な口を挟む事を許さない空気に、応えたのはミゼラだった。


「そうだよ。立場を利用して無理矢理行為に及んだそうだ」

「ミゼラ様…!」


 子供に言う事ではないと側にいた信徒が止めようとした時


「では同じ事をしてやればいい」

「え?」


「被害者の人数分、犯人よりも体格の良いできるだけ人相の悪い男を用意して同じ事をしてやればいい。自分が何をしたのかを理解させなければまた同じ事をするから」


 同じ事。男性の信徒が身を竦めた時、女性の信徒はメモし始めた。詳しく。


「性犯罪者は繰り返す。性癖というのは生まれ持った物だから、理性が余程強くなければ簡単に犯罪を犯す。そういった人間は被害者の気持ちを理解できない。自分がしたい事をしただけだから。中には死んでないのだから罪は軽いなどと言うゴミもいる」


「そんな人間に重労働や何年も閉じ込めるだけの罰を与えても何にもならない。税金で払う食費がもったいない。模範的に過ごせば出所できるのも間違っている。また同じ事を繰り返して被害者が増えるだけだ」


「犯人は理解していない。自分よりもでかくて気持ち悪い男に触られるという事がどれだけ悍ましい事なのかを。だったら身を以て体験させる事が必要でしょう」


「死ぬわけじゃないのだから」


 カリカリカリ………

 メモる音だけが響いていた。


「まずは映像を記録する魔道具を用意します。そして犯人に同じ行為をしている所を録画します。その時被害者の方が希望すれば見学できるように。もちろん執行者は被害者の人数分用意してくださいね」


「執行者には行為中こう囁いてもらいます」


『お前がやった事だろう』『死ぬわけじゃないんだろう?』


「全て終わったら、犯人には追跡用のタグか何かを取り付けます。そして罰を実行します」

「待て待て待て、お、同じ目に合わせるのが罰では?」

「違います。同じ目に合わせるのは自分が何をしたのか理解させる事。説教みたいなモノです」

「説教…?」

「そう、説教です。自分がやった事が返ってきただけでは罰にはならない」

「確かに、続けて」


 戦くカドリエールと真顔のマレーネにテレンスはソッと後ろへ下がった。


「罰は公開する事です。この犯罪者はこういう事をしたのでこういう説教をされて解放されました。追跡用のタグがあるので逃亡しても把握している事を開示します。もしもこの犯人がもう一度同じような犯罪を犯したのならば…」



「次は切り落とします」



 ソッとルカを下ろしたカドリエールはダッシュでテレンスの後ろに逃げた。


 カリカリカリカリカリカリカリカリ………






「…ありがとうルカちゃん。コレならすぐにでも戻ってこれるわ!お土産買ってくるわね、何が良い?」

「ほんと?おかしでもいい?」

「もちろんよ~」

「でしたらあっちでリスト作りましょ」

「私もお願いしたいです」


 華やかな会話を交わす女性陣を遠巻きに見る男性陣。カドリエールはちょっと震えていた。なんなら男性陣は皆小刻みに震えていた。


「アレは…」

「戻ったら話しましょう」


 とりあえずアデラスへ行って用事を終わらせてから話し合う事になり、その間ルカの事は女性信徒に任せる事に決まった。


 

─────この後アデラスでは性犯罪者が減った。




◇◇




 ミゼラとマレーネがアデラスにいる間に、残った信徒は教会の資料を探っていた。一番年上のフォーレンは大体見当が付いていたが、個人の性格である可能性も否定できないと口にはしなかった。


 しかしよくよく観察してみると教祖しか読めない原本がある『愛の蔵書室』に入ろうとしてたり、翻訳された教祖著の甘酸っぱい同性同士の恋愛小説をしょっぱい顔で聞いていたりと(まだ読めないから)子供らしからぬ所に気付いた。

 個人差はあるだろうが、年の近いカドリエールよりもミゼラやテレンス、フォーレンに懐く事も普通の子供とは違うように感じた(女性信徒には全員懐いている)。


 二人が帰ってきてから始まった会議では皆すでに結論を出していた。



『ルカ・ブラントは転生者である』と  



 舌足らずなのはともかく、そもそもルカは頭が良い。大人と対等に会話もできる事からあからさまな”子供扱い”はあまり良くない。ただし今回の犯罪者への罰を語った時のように突然豹変して大人びた行動をするかも知れないので、その時はフォローか本人が気にしないように流すのが良いだろう。


 とりあえず、教祖からの言い伝え通り”ギフトを授ける儀式が終わるまでは指摘せず、人間扱いする事”で意見は一致した。


 そうした扱いは領地でも広まり、頭が良くて大人びたお嬢様として周知されていった。




─────そして儀式後




『痔・attack!!』


 


 誰もが想像もし得なかったギフトを携えて鞭を握るルカ・ブラント。

 

 しかしヤベえ力を手に入れたヤベえ転生者はみんなの尻の平穏を願う優しい子供であった事に全信徒は心の底からホッとした。




  

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