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レフ・アネモヌンの事件簿〜転生探偵は現代知識で異世界の殺人事件を謎解く〜  作者: 和泉 弘幸


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サラクタ側妃暗殺事件 7




 俺がお姫様になって、、、いや違う。

 お姫様抱っこされながら王城に帰ると、すぐに陛下にお目通りを願うと、すぐに時間を作ってくださった。

 通された執務室には陛下と父上だけがおり、人払いは既に済ましてくれていた。


「至急、内密でお目通り願うとの事であったが如何したか?」


「事件の真相が分かりました。そして主犯格と思われる人物も判明しましたので、逃亡させないように監視、それとその後の処置、1つ大きなお願いがあるために先に陛下にはお伝えしようかと考え、参上した次第です」


「……そうか、ようやくか。してその者たちの名を申すが良い」


 少し大きく息を吸って吐く。

 これを言ってしまえばもう後戻りは出来ない。

 まだどこかに間違いがないか、見落としがないか、スコトーマいわゆる思い込みによる都合のいい思考をしていないかを考えてしまう。

 告発は問題ない。しかし、その後のお願いはこの国の最高権威である国王陛下ですら難しいことだ。


「実行犯は姉上の食事を運んだ侍女、そして……ゴールマ辺境伯閣下、その手伝いをしたのは教会原理派のジュアルブ枢機卿をサラクタ・ヴィーゼ側妃の暗殺に深く関与したとして告発致します」


「……そうか。あやつらは私の政策に異を唱えておったが、そこまでやりおったか!」


「しかし、陛下。1つ大きな問題がございます。この告発に確かな証拠を用意できておりません」


「なんだと? いや、レフがそういうのであれば何かしらの確証があり、証拠の目処が立っているのだろう」


「はい。それで先程申しましたお願いに繋がります」


「なんなりと申してみよ」


「はっ。それでは王都の中央教会より、その前日に盗まれた物の説明、そしてゴールマ辺境伯が討伐した悪魔の死体の押収をお願いします」


「なっ!? 証拠を得るために証拠の提示なく、押収したいと言うのか!」


 教会から押収をする。

 しかも強制押収となれば教会側との対立は免れない。

 これでもし何も見つかりませんでしたとなれば教会が王家を糾弾して、求心力や威光に陰りが見えて国が割れたり、他国との外交にも支障が出る。

 最も証拠が見つかったところで教会から押収したとなれば、やはり悪影響は免れないが枢機卿ほどの立場の者が私利私欲に溺れて王族の暗殺を企んだとなれば、教会側の不利益も大きい。


 いくら教皇が人格者であっても組織をまとめる者として譲れぬところはあるのだ。

 特に組織として要請に従い、証拠もない状況で管轄下にあるものを差し出したなど大問題となる。

 かつての世界ではカノッサの屈辱などがあったが、国と教会が揉めるとロクなことが起こらない。

 特に王権神授説が根強くあると尚更だし、正直国としても教会としてもやりたくない行為だ。


 そしてこれで最も試されているのは義兄であるノブルドーノ・ヴィーゼ国王陛下その人である。

 亡くなった側妃の為に進退をかける非常に重い判断を下さねばならない。


「教会を納得させるだけの証拠はありません。もし何も見つからなければ、財産を全て教会に寄贈した後、首を差し出すつもりです」


「見事な覚悟だがそれでは足りぬ。教会に面と向かって国が喧嘩を売って、言い出した者の首を差し出したくらいでは足りない」

「だがそこまでの覚悟を決めているならこの私も「待った!!!!」」


 陛下が何か言おうとした時に無礼にも遮る言葉が響く。

 この部屋に俺と陛下以外にいるのはもう1人だけ。


「いけません! 我が娘のために陛下の進退が掛かったとなれば、サラクタが気に病みましょう。そして何より陛下ともあろうお方が側妃の為に動いてどうします! 御身は国益と王妃陛下を優先なされませ!」

「そして我が息子レフの首を差し出すというのであれば、このサウダーデ・アネモネーの首も一緒に差し出しましょう。そのために派閥をまとめてこの地位を築いたのです。ゴールマでも枢機卿でも教皇相手でも討ち取った後にこの首を差し出しましょうぞ」


 俺の父であるアネモネー前伯爵であり、現在は宮廷一大派閥の長として陛下ですら無視できない存在になっているお方。

 この方は身内認定した人間に甘いのが大きな欠点だが、今回は俺と姉上のために本気で覚悟を決めさせてしまった。


「その気持ちは嬉しく思うが同じことよ。何も無ければ必ず教会と合流して、私を下ろそうとする者が現れるし、教会を完全に敵に回すと民衆への教育や政策が行き届かなくなってしまう」

「よし。何も出なければ私は退陣し、お主たち2人の首で手を打ってもらおう」


「へ、陛下、それでは!?」


「それぞれの領地と支部に戻られては骨だ。王都に居るうちに捕らえるぞ。すぐに教会への引渡しの要請と、従わぬ際の強制押収の許可を出す! 同時にゴールマとジュアルブ枢機卿に監視をつけ、王都を出ようとするなら捕らえても良いと命じる!」


 

 ◇◇◇



 王都の大通りを甲冑を身につけた騎士たち約50騎が物々しい雰囲気で進行する。

 それは今まさに一戦(ひといくさ)せんと言わんばかりであった。

 それも掲げたる紋章はアネモネー家の三輪アネモネ、その横に王家の紋章たる月桂の輪が模された旗印も掲げられており、貴族街の住人だけでなく平民たちも何事かとザワつき、彼らが歩みを止めた中央の教会は蜂の巣を突ついたような大騒ぎになった。


「き、騎士の皆様! これは何事ですか!?」


「我が名はレフ・アネモヌン! サラクタ側妃暗殺事件の際に出現した悪魔の死体を引渡し願いたい! またこれは陛下の命であり、不審な動きや逃走するものはその場で捕縛しても良いとの指示も受けておる。急ぎ、ご返答を求む!」


 父上を前に出すわけにはいかないので、俺が前に出て陛下の書状を突きつけて用件を伝える。

 倒れて世話になり、ドアを2つも壊した挙句にこれは非常に申し訳ないのだがやらねばならない。

 姉上のためというのが第一なのだが、国としても目の届きにくい辺境伯と枢機卿が裏で悪事を働くなどあってはならないことなのだから。


「アネモヌン卿、お話は聞かせていただきました。陛下がお求めとあれば引き渡すこともやぶさかではありませんが、ご存知の通り悪魔は教会の管轄であり、正当な理由なくして引き渡すことはできません。まずは理由をお聞かせください」

 

「聖下は陛下の要請により、悪魔を封印されていると聞き及んでおります。教会の立ち会いの元で解剖をして事件解決への手がかりとさせて頂きたい」


「つまり具体的に引渡すに値する証拠がないと? それではお渡しできません」


「聖下! 教会の上層部がサラクタ側妃暗殺に関わっていた疑惑があります。もし聖下が断り、強制押収となって関与が決定づけられた場合は組織ぐるみの隠蔽と捉えられます。どうか賢明な判断を! これが最後の要請です。さあどうなさいますか!」


 聖下の顔は見れないが後ろの者たちは怒ったり、顔を青くしている。

 まあ武力で脅しながら不安を煽って、決断をすぐに迫るのは正直気持ちのいい手ではない。

 しかし、こちらにも言い分があり、今後神敵と言われようが今、ここを逃してしまえばもう真相は闇の中なのだ。

 もう後戻りは出来ない。なら全力で進んでから死ぬ。


「……アネモネー卿。何故、教会が関与しているとお思いのですかな? その返答次第で甘んじてお渡ししましょう」


「教会で事件の数日前に紛失したという物。そして召喚陣。この2つは明らかな教会との接点です! 前者は魔法で追えず、わざわざ王城にすら探しに来なければならなかった。その紛失物の正体は悪魔の血液! 呪いの媒体にも使用される危険があり、入手が困難な教会が管理している貴重品です。その強い効力は少量が触れるだけでも、処置をしないと、死亡している人間の骨まで呪う危険物です! 事実、王城に勤めていたメイドが1人命を落としています。そしてこのメイドはサラクタ側妃暗殺に深く関与していた重要参考人でした。これでもまだ無関係と言いますか?」

 

「えぇ確かに紛失したのは研究用の悪魔の血液です。しかし、それに何の関係があるのですかな? 確かにそのメイドの方が亡くなられたのは残念ですが、うちから盗まれたという証拠はなく、状況証拠というものでしょう?」


「そうですね。しかし、召喚陣。これはこの国では王族か教会関係者、それも枢機卿以上しか知らないものです。我々の主張はサラクタ側妃は誰かに暗殺された。つまりサラクタ側妃以外の第三者が持ち込んだことになります」

「1つなら偶然で済ませられますが、2つも教会に関する重大な物だと偶然では済ませられないのです!」



「……アネモヌン卿の主張はよく分かりました。では最後に1つ。貴方はあの悪魔の死体を調べて何が重要な証拠が出ると思っていますか?」


 俺はその問いに胸を張る。


「私は必ず出ると考えております。もし何も無ければ私と父サウダーデ・アネモネーの全財産と命を持って償いましょう」


「……分かりました。そこまでの確信があるならお引渡し致しましょう。元はと言えば陛下に要請によって封印しておるのです。事件解決のためとなれば問題ないでしょう。それと1つ大事なことを申し上げましょう。当時盗まれた物は厳重に管理されており、枢機卿以上しか入室することが出来ない特殊な部屋にありました。その部屋は毎日点検しており、盗まれた事が発覚した時までに、点検以外での入室した記録のあるのはジュアルブ枢機卿ただ1人でした。点検は当時の聖下と枢機卿だった私の2人で交互に行っており、当時、王都にいて入室可能な枢機卿以上の人物は先代の聖下と私の2人、それとゴールマ辺境伯と共に来ていたジュアルブ枢機卿だけで、彼が最も疑わしい人物でしたが、盗んだ現物が見つからなかったので罰せなかったのです」


「……!? 貴重な情報の提供とご英断に心より敬意を申し上げます」


 頭を下げ、騎士たちと共に悪魔の死体を棺ごと引き取り、王城に戻ろうとすると、聖下も監視として同行してくれるとおっしゃり、彼らも王城に連れて帰った。

 教会が協力してくれるならかなり心強い。

 それにようやく尻尾を掴んだぞジュアルブ。



 ◇◇◇



「グナー伯爵令嬢、こちらが悪魔の死体ですが、どうか丁重に扱ってください」


「んっ? まあ元よりそのつもりだが、少年がそういうならいっそう丁寧にしよう」


「ありがとうございます」


 城で待ってくれていたグナー伯爵令嬢に悪魔の死体を引渡しが完了すると、王家と教会それぞれから派遣された監視役の女性たちを置いて部屋を出る。

 そして父上、カレウスの3人で客室に戻ってお茶をすることにした。


「レフちゃん、閣下、お紅茶が入りましたよ」


「あぁすまない。ありがとう」


 カレウスが淹れてくれたお茶を飲み、一息つく。


「……悪魔の死体から何かしらの証拠は出ると考えている。しかし、同時に出ないでほしいと思ってしまうな」


「んん!? ゲホッ! ゲホッ! お、おい! レフ! お前は何を言ってるんだ!?」


「れ、レフちゃん!? 何言ってるの!!」


「あ〜そうですね。父上の首と陛下の進退が関わってるのに不謹慎でしたね。まあ大丈夫です。証拠は出ますよ」


「レフ。何故証拠が出て欲しくないんだ?」


 そう言った父上の顔は優しく、ただ子供に理由を問うているだけであった。

 俺の推理は正直外れていて欲しいが、この人を死なせてしまうのはあまりに忍びなかった。

 

「覚悟はしてますし、頭では分かっているのですが、姉上の死を理解してしまうことです。まだ心のどこかで姉上が生きていて欲しいと縋って信じたいのです」


 姉上は自らの責任を放棄したり、子供を置いてどこかに行く人ではない。

 突然いなくなるなんて有り得ないと頭は分かっているのに、まだ認めたくはなかった。

 どんなに信じられなくても証拠が出なければ、生きている可能性があると思って、神に願ってしまう。


 バンッ!!

 

 心の葛藤も吹き飛ばすようにバタバタと勢いよく、ノックもなしにドアが開けられた。


「おい! 少年! アレはなんだ! い、いや何があった!」


「……証拠が出てしまいましたか。何が出ました?」 


「胃の中からR.Aと刻まれた宝石。あれは君がサラクタ様に献上した物だ。私も見たことがあるから間違いない」


「……胃の中からは魔素痕も出ましたか?」

 

「あぁ、、、胃の中からはポーションを使ったと思われる魔素痕も出た」


「そうでしたか……」


 身体が寒く、心臓が酷く痛み、吐きそうになるが気合いで立つ。

 そして父上に向かい合った。


「父上、陛下に今すぐにゴールマとジュアルブの2名を拘束するように報告をしてください。俺は2人の悪事を陛下の御前で説明するための準備をしておきます」


 倒れそうになる身体に鞭打って父上に頼むと、父上はすぐに「分かった」とだけ言って部屋を出る。

 そして無礼は承知でグナー伯爵令嬢に背を向けたままお礼を言う。


「グナー伯爵令嬢、本当にありがとうございます。検死をしてくださったのが貴女で本当に良かった」


「私は最悪の気分だよ。初めて解剖した時より何倍も気持ち悪くて、身体が震えてしまう。少しでも気分を良くするために最後のショーには私も解剖の責任者として参加するが、その前に少し背中を借りるぞ」


 背中に少し体重がかかると、次いで服を強く握りしめられた。

 どうしたものかとカレウスを探すと、奴はしれっと姿を消していた。

 本当にいい友を持ったな俺は。


 頭に上りそうな血を、上を向いて抑えながら、陛下たちに説明するために、今までの問題となった点に対する答え、理屈の再確認をする。

 俺とグナー嬢の足元は心境を雄弁に語っていた。

 



 


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