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レフ・アネモヌンの事件簿〜転生探偵は現代知識で異世界の殺人事件を謎解く〜  作者: 和泉 弘幸


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サラクタ側妃暗殺事件 2




「……ここだけ嵐でも来たような荒れ具合ですね」


 部屋に入って最初の感想はそれだった。

 部屋のいたる所にガラスの破片が落ちており、刃物で切り裂かれた跡が壁やベッドにあり、血痕もあちこちに付着していた。

 特に騎士やゴールマ辺境伯が戦った場所である入口付近は壁や床に斬撃痕や血痕が付着していた。

 そして部屋の真ん中付近には生々しく大量の出血痕があり、姉上が着ていたと思われる衣服が破れたという言葉が生易しいほどに、ちぎれてバラバラな布として落ちていた。

 


「ここは魔素痕が検出されるのだろうか? 義兄上、魔素鑑してみてもいいですか?」


「許可しよう。おそらく封印の影響はない。封印の魔法は空間に干渉するらしいので、内部に魔素は残らないはずだ」


「仮に魔素痕があっても光り方で判断は可能ですし、混ざり合ったら変色するので問題はありません」


 弱すぎると色の判断がつかないが、まあ多分分かるだろ。

 

 後ほど魔素鑑はするが、まずは余計なことをする前に現場をしっかり確認する。


「なんでこんなにガラス瓶の破片が落ちてるんだ? 窓ガラスならともかく、戦闘中にガラス瓶……あっ!? これ姉上に渡したエリクサーの瓶じゃないか」


 間違いなかった。

 瓶内部の底の部分にアネモネの花の紋章があり、俺が作ったものだった。


「しかし、エリクサー以外のガラスの破片もあるな。どういうことだ?」


 俺は姉上の部屋を漁って、残りの瓶の正体を探る。

 するとベッドの横にあるチェストからいくつもの瓶と、俺が作ったエリクサーの残り、貴金属類が出てきた。


「うーん義兄上、これって恐らく解毒用のポーションですよね?」


 チェストの中から瓶を1本取り出して陛下に見せる。


「これはそうだ。そこには各種ポーションが入っているはずだ。なるほど、これは妙だな」


「えぇ。あらゆる病や怪我、解毒を出来るエリクサーが複数本使用された痕跡があり、さらに他のポーションも使用したというのは妙ですね」


「エリクサーの効力は確認したし、普通は効くはずだ。だが何かしらの理由で効かなかったので、エリクサー複数本と他のポーションも飲んだのか?」


 陛下、するどいな。

 これは俺も同意見だった。

 当たり前だが、万能薬とも言われるエリクサーは1本飲めば十分なのだ。

 しかも解毒薬というのが気になる。


「陛下、陛下に限らず王城にいるものは基本的に毒対策はしていると伺っているのですが、それをすり抜けて毒を盛るということはあるのでしょうか?」


 俺も姉上の元にいる時は毒無効のアクセサリーをつけていたし、普通に考えたら服毒というのは考えにくい。

 だが、絶対にないという思い込みほど危険なことはない。


「義兄上と呼べ。普通に考えられない。だが、例えばエビや麦を食べられない者が、本人も意識してないうちに口にしたり、食べられないと知らない時に食べてしまえば命を落とすこともある。ただし、これもすぐに解毒薬を服用すれば命に別状はない」


 なるほど。アレルギーは厳密には毒じゃないのか。

 だがポーションや回復魔法は効くのか。

 んー魔法という不思議パワーは再現性はあるから、科学的であるのだが、何をもってして毒無効としているから分からないから困る。


「義兄上。例えばですけど、組み合わせ次第で毒になるものが体内に入って混ざるとどうなるかはご存知でしょうか?」

 

「うむ。その場合でも毒無効のアクセサリーなら無毒化をする。なので普通に考えればすり抜けはほぼない上に、エリクサーを飲んで治らぬということはないだろう」


「さてさてこれはどういうことなのか、、、」


 俺は手帳を取り出そうと胸ポケットに手を入れて、先日カレウスにあげた手帳とは別のものを取り出し、室内の状況と疑問点を書き込む。


 荒らされた現場には使用済みと思われるエリクサーの瓶の他に、使用済みと思われる解毒用のポーションもあった。

 

 その情報も書き込むと、他に怪しい部分がないかを探す。

 すると部屋の入口付近の隅に魔法陣が書かれた高そうな羊皮紙があった。

 

「いかにもって感じの魔法陣だ。義兄上、この魔法陣が悪魔召喚のものなのでしょうか?」


「うむ。教会の者に確認したから、これは間違いなく悪魔召喚の陣だそうだ」


 何故、このようなものが姉上の部屋にあるのだろうか。

 こう言ってはなんだが、姉上は悪魔召喚どころか魔法全般にあまり興味がなかった。

 基本的な魔法は使えたが、それすらもお付きの者にやらせる上流階級の人間であり、彼女の興味が魔法に向いたことはなかったはずだ。

 しかも、あまりに不自然なところにある。

 入口付近ということ、周りには血痕や争った痕が見受けられる。

 指紋をつけないようにハンカチを被せて、陣に触らないように角を手に取り、そっと持ち上げる。


「……ふーん」


 魔法陣を見ても何も分からない。この手のことは基本的な知識しかなく、魔法陣について分かることはなかったので、そっと元の場所に戻した。

 だが、これで見えてくるものがある。


「父が見た不完全な事件資料、事件の後処理、何故暗殺事件と遺体もないのに死んでいると断定したのか」


 口に出してしまうとはっきりと繋がってしまう。

 握りしめた拳の爪が肌に刺さる。

 義兄上が疑っていてくれて良かった。

 もし、この御方もそれをヨシとしていたり、そう公表したらアネモネーが国から消えるか、国が消えるところだった。


「姉上は悪魔召喚をしようとして、事故かどうかは不明だが生贄になり、死亡したと誰かが結論付けた訳ですね」


 自分でも驚くほど、声が冷たかった。

 だが頭は怒りで煮えたぎっていた。


 よりにもよって、誰よりも国民を愛して国のことを考えた妃に、悪魔に魂を売ったという濡れ衣を着せようとした者がいることが許せなかった。


 どう考えても食事の途中に退出して、そうだ!悪魔を召喚しよう!とは思わないだろ。

 少し考えればおかしい点を無視して早期解決したかったか、都合の悪いことを隠した奴がいるな。


 

「……その通りだ。あやつら、教会の者たちは我が妻が悪魔に魂を売ったのだと言ったのだ。あの時の私は側妃が悪魔召喚をしたというのは国としてまずいからと言って、面子を保つために暗殺事件としてしか処理できなかった。だが、アネモネー前伯爵がいて地盤が固まり、アネモヌン卿がいる今ならば妻の、サラクタ・ヴィーゼの名誉を取り戻すことが出来るのだ。これは王ではなく、そなたの姉を愛した義兄としての頼みだ。私が愛した女性の死の真相を解き明かしてくれ。そなたの結論がサラが悪魔召喚をしたのだというなら、それを受け入れる。だからどうか彼女が最も信頼したその知恵を貸してくれ」


「勿体なきお言葉。必ずや私が真相を解き明かしましょう、義兄上」


 義兄上が吐き出した言葉は深く重かった。

 決して正室とは不仲ではなく、むしろ仲は良好な彼が今もなお、姉を想っていてくれるのは素直にうれしい。


 自分より激しい感情を見たからか、かなりクールダウンした頭で事件と再度向き合うことにした。


 改めて部屋を観察するが、これ以上の不審な点は見当たらない。

 念の為にワイヤーの痕がないか、窓に不審な点はないか、隠し扉などの脱出場所、機械仕掛けによるトリックなど有名どころを注意してみたが、何も見つからなかった。

 とりあえず部屋の隅々まで目視で調べたので、この事件の鍵になりそうな魔法陣を書き写す。

 細かい所は正確に、大きなところはアバウトかつズラして、陣として成立しないように気をつけて、書き終えた俺は次に魔素鑑定へと移ることにした。


 

「魔素痕が全然ないな。城で魔法を使いにくいとことを考えれば、悪魔を討伐する際にも魔法を使わなかったということなのか?」


 部屋から検出された魔素痕はエリクサーやポーションが入っていたと思われるガラスの破片だけだった。

 他には何も魔法が使われた痕跡がない。

 しかし、一部に反応があるということは、時間の経過で魔素痕が消えてしまった訳ではなさそうだ。

 魔素鑑定は姉の死後に俺が作ったものだから、魔素痕を隠蔽したとは考えにくい。

 

 つまり魔法の使われた痕跡がないということが分かった。

 小さな一歩だが、これは大いなる前進なのだ。



「義兄上、現場に何か無くなった物などはありませんでしたか?」


 俺が作った物といえば、ここにあれがない。

 チェストの中に貴金属や宝石類などがあったのだが、俺が渡したトルコ石、いわゆるターコイズ石をあしらったアネモネのペンダントがない。


 いや、厳密にはペンダントに付けた石だけが無くなっている。

 チェストの横にアネモネの花を象ったペンダントがあるのだが、中心部に埋め込んだターコイズ石が無くなっていた。

 小さなものだし、力を入れれば取れるので落ちてないかと周りを見たが見当たらない。

 

 

 姉上は大事なものは手元に置くので、てっきり外れて直すまで時間が無くてもここにあるか、それか戦闘の衝撃で部屋のどこかに落ちていると思ったのだがな。

 気付かぬうちに無くしてしまったのだろうか?

 いや、それなら姉上はすぐに無くしてしまった。と謝ってくれる人だから、無くしたとしても時間が経ったとは考えにくい。

 やはり何かと一緒に持ち去られたのだろうか?


「この部屋は当時のままにしており、持ち出した物はないはずだが、何かあるはずの物がないのか?」


「そのように大それた物ではないのですが、姉上に渡したペンダントが見つからないなと」


 カレウスに先日あげた予備のターコイズと同じ、材料で作った姉上に贈ったはずのペンダントが見当たらなかった。

 カレウスには予備を加工したものであり、言っては悪いが余り物の素材を使った物なのだが、姉上に贈った物はより精神の安定と魔力を留める強い効果がある。

 部屋にあるなら魔素鑑定にも引っかかりそうなのだが、小さな物なので無くしてしまったのかもしれないな。


「あぁサラが大事にしていたアレか。確か事件当日にも身につけていたはずだ」

 

「そうですか。教えてくださりありがとうございます」


 姉と一緒に消えてしまったのだろうか?

 まあ考えても仕方ない。



 事件現場で調べることはこんなもんか。

 正直、何も分かっていないに等しい。

 だが、魔法が使われた痕跡がないということが分かった。


 大したことはないが、すぐ見直せるように、ここで情報をメモ帳にまとめるか。


 【捜査状況】

 

 ・現場には複数のエリクサー、解毒用ポーションを使用した痕跡があった。


 ・現場では魔法が使われた痕跡がなかった。


 ・重要かは不明だが姉に贈ったペンダントのターコイズ石だけが消えていた。


 【未解決の重要そうな点】


 ・何故、姉上は部屋の鍵を閉めて、護衛を締め出したのか。


 ・姉上をどうやって消したのか。


 ・何故、悪魔を呼んだのか。


 ・誰が姉上が悪魔召喚をしたと結論付けたのか。



 

 とりあえずはこんなもんか。

 いや、まてよ。

 密室に関しては姉が自分でしたんだよな。

 鍵を閉めるというのは秘匿する必要があるということ。


 確かに悪魔召喚をしたなら鍵を閉めるだろうが、何かを盛られたか身体の不調を感じてエリクサーを飲むとしたら鍵を閉めないか?


 いや、絶対閉める。

 複数本持ってるなどと誰かに知られたら厄介事のタネでしかない。

 つまり結果的に姉上は自分で密室にしてしまったのか。

 たまにミステリーでもあったな。被害者自身が密室にしたやつ。


 じゃあ問題は誰が魔法陣を置いたかが、新しい問題にはなるが、そんなに難しく考えなくていいだろう。

 普通に考えたら犯人しかいない。

 いたずらでそんなもん持ち込む奴がいたら、家族もろとも首が飛んだ上で晒されている。

 


 さて次に行動すべきは悪魔について調べるか、ゴールマ辺境伯の裁判資料を見るかのどちらかだな。

 

 


 




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