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レフ・アネモヌンの事件簿〜転生探偵は現代知識で異世界の殺人事件を謎解く〜  作者: 和泉 弘幸


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名探偵カレウス 8




 翌日、アタシは再び王城に来ていた。

 ついにレフちゃんの無罪を証明する時が来たわね!と意気込んでいたら、何故かお忙しいはずのクリュザンテーメ殿下がそこにいた。


 いや、殿下は協力してくれたし、レフちゃんを解放したがっているから分かるのよ。


 ただもう1人、出来れば会いたくないお方がいた。


 ノブルドーノ・ヴィーゼ国王陛下。


 アタシはこのお方に命じられてサラクタ様付きになったし、引き上げてもらった恩を捨てて野に下った。

 どうする訳にもいかないので、急いで頭を下げる。


「よい。楽にせよ」


「はっ」


「久しいなベルフラワー卿。息災であったか」


「はい。今はアネモヌン卿の元で健やかに過ごしております」


「それならよい。さて今日登城したのはレフ・アネモヌンの無罪を証明すると聞いたが真か?」


 い、今すぐ帰りたい。

 陛下と殿下の前なんて聞いてないわよ!

 これなら武力行使でレフちゃん攫うほうが気持ちが楽じゃない!

 自信はないけど、出来ないといえば陛下の時間を奪ったことで色んな人に叱責されることになるじゃない。


「そう身構えることもない。このアネモヌン卿は既に仮説を立てている上に、騎士たちも真相解明に向けて動いておるから間違えたところで構わん。またこの場は当然非公式なので、どのような言葉遣いや発言でも罰することはないと誓おう」


 これ言葉遣い好きにしていいじゃなくて、誰を告発しても構わないと言ってるわね。

 城内で殺人事件を起こしたことに怒っているのか、それともレフちゃんに罪を着せたことを怒っているのか、どちらなのかしらね。


「陛下の寛大なお言葉に感謝致しますわ。それではこのアタシ、カレウス・ベルフラワーが今回の事件の真相を解き明かしてみせましょう」


 吸った空気をゆっくりと長く吐き出す。

 さぁ胸を張りなさいカレウス・ベルフラワー。


「まず今回の事件は何者かによって、アネモヌン卿が犯人に仕立て上げられたと断言致します」

「簡単に事件を振り返りますと、鍵が閉められた部屋でナタリア・リーエン修道女が亡くなっており、そのご遺体に覆い被さるようにレフ・アネモヌン卿が倒れておりました。状況的にはアネモヌン卿が殺害したように見えますが、不自然な点が数多くございました」

 

 レフちゃんが謎解きを披露する時は必ず振り返りをして、その後に不可思議な点を解いていく。

 アタシもそれに倣わせてもらうわね。

 

「まずアネモヌン卿が疑われている最大の原因として、部屋の鍵は閉められていた。また、その鍵は室内にあり、マスターキーは厳重な管理をされおり、使われた痕跡がないために、同じ部屋にいたレフ卿が一番怪しいということでしたわね」

「しかし、これはもう崩れております。偶然の産物でしたが、部屋の外側のドアノブとその真下の廊下に魔素痕跡が検出されました」


「ほう? この城の中で何者かがドアノブに魔法で細工をしたと申すか」


「その通りでございます」


「してその方法は?」


 アタシの目を見つめる陛下。

 そんなに見つめられたら照れちゃう♡

 なんて言ったらさすがに不敬ね、、、

 真面目にやりましょ。


「部屋の鍵を閉めた方法は実践してもらいましょう。グラド卿、お手数ですがお願いします」


 グラド卿に耳打ちをして伝えて、最後に息をふぅと吹きかける。


「はいっす! はい、はい、あぁそういうことっすね。分かった……あひぃん♡」


 あら、お耳が敏感なのね。

 少しグラド卿の緊張をほぐしてあげると、レフちゃんがこっちを睨んでた。

 流石に陛下の前だからちゃんとしろと言いたげね。

 でも、あんなにガチガチで緊張してるグラド卿に変に魔法を使わせる方が危ないわよ。


 『ガチャッ』


「外から鍵が閉められたみたいですわね。グラド卿!せっかくなので鍵を開けて入ってきてくださいな」


 そう言うと『ガチャリ』となり、グラド卿が入室する。


「当然ですがグラド卿は正しい鍵を持っておりません。しかし、このように鍵をかけられました。この方法は魔法が使えれば誰でも出来きます」


「ふむ。そういうことか。クリュよ、分かるか?」


 どうやら陛下はすぐに分かったみたいね。

 まあドアノブを注意して見たら今なら分かるわね。


「報告書にはドアノブとその下に魔素痕跡があり、下はシミになっていたと。つまりシミになるのが溢れた。つまりは水でしょうか? いえ、水は鍵にはなりえません」

「なら答えは水を入れて凍らせて、氷の鍵を作ったのですね」


「その通りです。鍵穴に水を流し込み、凍らせて氷の鍵を作りました。この方法ですと、王城の魔法対策をすり抜けて、鍵を閉めることが可能なのですわ」

「これが密室の答えであり、この方法を使えば誰でも犯行は可能だったのです」


 えぇ。この方法に間違いない。

 胸の鼓動がやけにうるさく聞こえる。

 間違っていたらどうしようという気持ちをねじ伏せて、アタシは胸を張った。

 それはレフちゃんがいつも推理を披露する時に堂々と胸を張っているように。


 ……そう。レフちゃんもいつも緊張していたのね。

 いくら自信があっても、無実の人の人生を自分の手で、めちゃくちゃにしてしまうかもしれない恐怖に負けないように、胸を張り、堂々と言っていたのね。


 チラッとレフちゃんを見ると、少し心配そうな顔をしている彼と目が合う。

 すると彼はアタシを安心させるように微笑み、頷いた。


「ううむ。確かにこの方法なら鍵を閉めることは可能のようだな。しかしこれではまだ、外から鍵を閉められたということしか証明は出来てないぞ」


「その通りですわ陛下。なので次はこの密室で何があったのかをご説明致しますわ」

「アネモヌン卿の証言によりますと、部屋に入った時にナタリア様は血を流して倒れていたそうです。しかし、これはその時の状況と矛盾しております」


 そう。レフちゃんの証言には不可解な点があった。

 だから騎士団の人たちも彼を拘束したのでしょうね。

 

「その矛盾とは、アネモヌン卿の服には返り血が付着していました。当然ですが返り血は生きている人を傷つけて、すぐに刃物を抜かないと飛沫上にたくさん付くことはありません。彼の証言が正しいとすれば、返り血が大量に付くことは考えにくいです。しかし実際に彼の服には返り血がついておりました」

「ですがこの証言が本当であることをアタシが証明してみせますわ」

 

「ほう? 私にはさっぱり思いつかないが真犯人はどのような手を使ったのか、それを説明してみよ」


 陛下が相槌を打ってくれたり、話を進めてくださるのは非常に嬉しいのだけど、普通に緊張するわね。

 

「ここで重要な点はナタリア様のご遺体からポーションが使われた痕跡があり、使用されたのは事件当日とのことです」


 アタシはこのポーションが何に使われたのか、全く分からなかった。

 けど気づいてしまえば簡単だったわ。


 だ(・)っ(・)て(・)ナ(・)タ(・)リ(・)ア(・)様(・)は(・)純(・)粋(・)な(・)被(・)害(・)者(・)で(・)は(・)無(・)い(・)も(・)の(・)。


「つまりこれが示す答えは、ナタリア様は一度刺された後、もう一度刺されたのです!」

「より正確に申しますと、ナタリア様はアネモヌン卿が入室する前に怪我をして出血したのを、ポーションで治療した後にアネモヌン卿が入室、その後、真犯人によって殺害されたのです!」


「んん? 何故怪我をしたならすぐに逃げなかったのだ? もし犯人がずっと近くにいたならば、そもそもポーションなど飲めないであろう」


「えぇ。しかし大事なことを見落としていますわ陛下」


 一つ息を大きく吸ってから、ゆっくり長く吐き出す。

 そしてこの事件の重大な点を述べる。


「被害者であるナタリア様は真犯人と共犯だった可能性があるということです。そしてアタシはナタリア様がアネモヌン卿を貶めるために犯人と共謀していたと主張しますわ!」


「ベルフラワー卿、そう言うのであれば当然根拠はあるのであろう? まずはそれを示してみよ」


「もちろんですわ。まず動機ですがこれはアネモヌン卿への恨みでしょう。彼女は彼を追い出したことにより、アネモネー家から追い出され、出家を余儀なくされました。地位を奪われた事による逆恨みからの殺意は十分考えられます」

「次にアタシの考える事件当日の流れを説明しましょう」


 逞しく筋肉質だが、決して硬いだけではなく適度な柔軟性がありムチムチ感も備えたこの爆乳は努力の結晶である、その自慢の胸を張る。


「ナタリア様は部屋で真犯人によって刃物で刺されて出血し、部屋や服を血で汚した後にポーションを飲んで治療。そして死んだふりをしていると、アネモヌン卿が部屋に入ってきます。血まみれの彼女に気を取られた彼は背後から殴られ気絶してしまいます。それを確認したナタリア様は血の付いた服を着替えました。そして部屋から出ていこうとした時に共犯だった犯人に背後から一突きにされたのです。そしてアネモヌン卿を背後から抱きかかえて、刃物を引き抜くと簡単に現場の再現が出来ますわ。ナタリア様には適当に他の者を殺してアネモヌン卿が殺したように偽造するとでも言ってたのでしょう」


「かなりの力技だが完全に否定する要素はない。だが着替える必要があったのか、またそれは推論であり、証拠はないようだがベルフラワー卿?」


「証拠ならクリュザンテーメ殿下がお持ちですわ陛下」


「えっ?あっあぁ!アレですわね!確かに私が持っております」


 そう言うと殿下が昨日焼却炉で燃やされていた血痕の付いた布を取り出した。


「こちらは昨日焼却炉で見つけたものです。調べていただいたところ修道着だということが判明しました。そして着替える必要性ですが、ポーションで傷は治りますが、刺した際に出来る服の穴と血痕は元通りにはなりません。まずナタリア様視点ですと、このような服を着ていては騒ぎになります。そして犯人視点では同じところを刺すのは難しく、ズレてしまえば刺し傷以上の穴が服にあり、不審に思われるので着替えさせたのでしょう」


「なるほど確かに筋は通っている。だが、それが事件の証拠品だと言う根拠はあるのか?」


「もちろんです。そもそも城内で修道服を燃やすこと自体が不自然であり、事件の関連性が高いこと、また燃やされていたのは昨日です。一昨日の事件当日は城内が警戒態勢であり、その中で証拠品の破棄はかなり難しいですし、騎士団も真っ先に見つかっていない凶器を探す為に焼却炉も探しているでしょう。しかし、昨日、アネモヌン卿が拘束されたと広まり、城内の緊張が和らいだ時に燃やそうとしたのではないかと愚考致しました」


「ベルフラワー卿の言い分は分かった。では誰がアネモヌン卿を襲ったと考えられる」


「はっ。証拠はありませんが、アネモヌン卿を部屋に案内した者が一番怪しいでしょう。おそらくはゴールマ辺境伯閣下の手の者か教会、ジュアルブ枢機卿の手の者かと」


 ……どう考えても怪しいのはこの2つの勢力よね。

 この2つにはレフちゃんを排除して、そのお父様であるアネモネー閣下の勢力を削ぐことで利がある。


 敵地に面する辺境伯と人間至上主義で過激派の枢機卿。

 この2つはサラクタ様の肝煎り政策だった経済による敵地への浸透政策に強く反対していた。

 戦争が起こってこそ権力を握れる辺境伯と、過激な教義と思想で亜人を許さない枢機卿は経済支配で亜人を飼い殺しにすると大きな不利益を被ることになる。


 アタシはこの2つの勢力のどちらか、あるいは両方だと、ほぼ確信している。


「そうか。カレウス・ベルフラワー卿、卿の言い分には説得力がある。そして我が義弟であるレフ・アネモヌンとも同じ見解である。よって部屋に案内した者を拘束し、その結果次第でアネモヌン卿を釈放する」


 !? 嘘でしょ!?

 レフちゃんが犯罪を犯した可能性は限りなく低いのになんでよ!

 いや待ちなさい! レフちゃんと同じ見解?

 あの子、話を聞いただけで事件を解き明かして、先に陛下に言っていたの!?

 色んなことで混乱しているとレフちゃんが口を開いた。


「陛下、寛大な処置に心から感謝致します」

「ベルフラワー卿、ここにいれば君がいない時でも兵士が守ってくれるし、何より王城ほど秘密の話ができて、サラクタ様の調査ができる場所はない」


「あっ……」


 陛下とレフちゃんの間で何か密約があるのね。

 多分それはサラクタ様の事件に関すること。

 アタシ達の目的はサラクタ様暗殺事件の真相解明だものね。 


「さてそれでは私は政務に戻るが、この件は騎士団に命じて早急に調べさせよう。それとアネモヌン卿、夜にクリュと私の所へ来てくれ。その時に資料を渡すとしよう」


 陛下はそういうと部屋から出ていかれた。

 

 そして陛下と入れ違いになるように、レフちゃんを部屋に案内したと思われる人物が遺体で見つかったと報せが届いたわ。


 遺書も残っており、状況から見て追い詰められての自殺だと言うらしい。

 遺書には罪を悔いて死を選んだということ、そして問題を起こしたナタリア様がゴールマ辺境伯に嫁ぐのは反対であり、忠義によって殺害したが、我が身可愛さにアネモヌン卿に罪を着せてしまった。と書かれてあったみたいね。



「これ切り捨てられたわね」


「そうだろうな。元からバレそうになれば始末するつもりだったのかもしれない。お互いゴールマ辺境伯には注意しておいたほうがいいだろう」



 こうしてアタシの初めての事件は不本意ながらも解決した。

 けどこれでハッキリしたわ。

 レフちゃんを狙う者がいる。

 彼、彼女らがサラクタ様の事件との関係があるかは分からないけど、今度こそ大切な人を守る。

 アタシの手はレフちゃんから戴いたネックレスを握りしめ、改めて心に誓った。



 


 



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