名探偵カレウス 5
◇◇◇
殺人の容疑で拘束されているはずなんだが、やっぱり権力って偉大だよな。
軟禁状態ではあるが牢屋じゃなくて、貴人用の一室だし、監視役という名のお手伝いさんまでいる。
カレウスが事件を解くまで、錬金術で何か作りたいもの考えながらのんびりしておこうと思っていた。
多分こう思ってしまったのがダメだったんだろう。
「…………」
「これはこれはゴールマ閣下。初めまして、レフ・アネモヌンと申します」
「……………………」
目の前でめちゃくちゃ怖い顔をした、歴戦の武人といった風貌のガタイのいい老人がいる。
この距離だと何も出来ずに殺されるという確信めいたものを感じる威圧感。
これが本物の戦人か。とこんな状況じゃなければ感動していただろう。
だが、そんな歴戦の猛者が俺の瞳をずっと見ているのは冷や汗が止まらないからやめて欲しい。
「あ、あの何かございましたでしょうか?」
沈黙に耐えきれず、つい聞いてしまった。
宮廷マナーとしてはダメなんだが、まあ無礼討ちされるほどじゃないし、武人肌の人はあまり重視していないしな。
「…………」
……これは試されているな。
さてさてどうするべきか。
いや、これはチャンスだ。
この人はあの事件の関係者なんだ。
なら絶対に聞くべきことがある。
「閣下はサラクタ側妃様の事件の際に、その誉れ高い武勇を持って魔物を討伐したと聞き及んでおります。もし私の顔を見に来ただけなら、是非ともそのお話を聞かせていただきたい! 裁判の際に詳しく説明したとは聞いておりますが、私のような一介の法律家にはそのような大事な話は降りてこないので、ご本人である閣下からお話を伺ってみたいのです」
普通に考えればめちゃくちゃ無礼。
だけど、こちらから何かアクションを起こさないと話が進まなさそうだし、聞けたらラッキーで動いてみたがどうだ?
「…………ワハハハハ! 我輩を目の前にして過去の情報を求めるか! 我輩の妻となる女を殺めた罪人がなぜ過去を求めるのだ?」
えっ? ナタリア様と閣下、結婚するの?
何にも聞いてないし、わざわざ言われる立場でもないから、構わないんだが、、、妙に引っかかる。
「私は殺人などという罪を犯しておりません。それは私が知っておりますし、何より最も頼りにしている友が捜査に乗り出したので、この事件は既に私の無実は確定したも同然ですので」
「ほう? ではその男が何も手掛かりをつかめなかったらどうするのだ」
「その時は潔く私の首を差し出しましょう。 友は私の無実を証明出来なれば、必ず処刑された私を追って腹を召すはずなので、私が先に行って友を出迎えましょう」
「アネモネー前伯爵閣下や殿下に泣きつかぬと言うのか?」
「もちろんでございます。我が友を信じて送り出したのです。その友が解決出来なければ、相手が上手だったに過ぎません。それを命惜しさに権力に泣きついてしまえば、友の名誉を汚すことになるでしょう」
めちゃくちゃ嘘だ。
姉の事件も解決してないのに死ねる訳がない。
だが、ここは覚悟を示そう。
カレウスとなら心中してもいいのは本当なのだから。
「ならば良し。先ほど言っていた裁判の件は、極秘情報なので知りたくば陛下に許可を得て、裁判資料を見るが良い。我輩の発言は全て記載されておるはずだ」
「あぁそれと、もしお主が我輩が愛したナタリアを殺めたのならば、我輩がその首を切ってやろう」
ゴールマ辺境伯は「ワハハハハ」と豪快に笑うと去っていった。
何しに来たんだ?いや、何かを探りに来たな。
それにしてもナタリア様とゴールマ辺境伯が結婚?
いや、ありえない。政治的に旨味が無さすぎる。
問題を起こして修道院送りにされた女性をわざわざ俗世に引っ張り出して後妻? ありえない。
普通に愛人として囲えば良い。
アネモネーに対する何かしらの圧力?
それか俺を嵌めるためにやったのか?
ありえる。厳密に言えば俺を嵌めて、アネモネー家の力や、陛下、殿下たちの影響力を削りたいのかもしれない。
王城内で、殿下の叔父が人を殺したというのは大スキャンダルだ。
しかも、俺は一応は貴族ではあるが名誉爵かつ独立しているので、実家も動きにくい。
個人的な怨恨よりも、政治的な争いに巻き込まれた可能性も考えておくか。
……何もかも嫌になってくるな。
無罪が証明されてもここで暮らして仕事に追われることなく、城で世話を焼かれながら過ごしたい。
姉上の事件解決したら、だらだらとニートして、たまにポーション売るだけの生活をしようかな。うん、それがいい。
◇◇◇
「やぁ少年、元気かい? 寂しかったなら私の胸を貸すから存分に泣いてもいいよ」
「まぁ! 寂しかったのねレフちゃん! うっふ〜ん♡ アタシの逞しい胸筋で安心を与えてあ・げ・る♡」
こ、濃い。
部屋に来てくれて早々にあまりに濃い。
「2人とも来てくれて嬉しいよ。とても素敵なお誘いだけど、恥ずかしいから遠慮しておく。それで事件の調査はどんな感じなんだ?」
来てもらって悪いが、さっさと本題に入ってもらい、真面目な雰囲気になってもらいたい。
監視の前で不審な行動はしたくないし。
カレウスに聞くと、しっかりと調査してきてくれたようで、詳しく教えてくれた。
「今のところ、こんな感じよ」
「なるほど、まとめるからちょっと待ってくれ」
監視の人から紙とペンをもらって書いて、カレウスの話をまとめていると、ふと手が止まった。
「カレウス。これは君が解く事件だ。俺が解いたら意味が無い。事件があった時の俺の証言を聞いて謎を解いてみてくれ」
「なんでよ!? 別にレフちゃんが解いてもいいじゃない!」
「俺が解いては難癖を受けそうだし、第三者が解く方が絶対にいい。分からない時はヒントはあげるから頑張ってくれ! 君が諦める時は俺の命運が尽きる時だ」
「分かったわよ。何か考えがあるのね」
「まあカレウスも推理に慣れて欲しいのと、さっきゴールマ辺境伯に啖呵を切って、最も信頼している友が事件を解決すると言ったからな」
事件の謎を解くには様々な視点が欲しい。
俺はまだ前世の視点から、この世界を見てしまっている。
自分と違う文化と価値観を持つ人間を、自分の尺度で測ると必ずズレが起こるから、カレウスが必要になる。
「……いいわ。その覚悟にカレウス・ベルフラワーの名にかけて報いてみせましょう」
「ありがとう。俺がする事件の話は簡単だ」
「クリュザンテーメ殿下とのお話が終わったあとに、見覚えのない男に、ゴールマ辺境伯が面会を希望しているから、部屋を確保してると声をかけられたんだ」
「そして部屋に入ると部屋の奥で血を流して倒れている人がいて、俺は慌ててポーションを用意しながら駆け寄ると、それはナタリア様だということに気づいたところで、背後から何者かに何かで殴られて意識を失ったんだ。そして気がつくと騎士たちに囲まれていたんだ」
「普通に考えて声を掛けてきた男は、何かを知ってそうね。いや、それより待って! 部屋の奥で血を流しているナタリア様を見て、ポーションを用意したのね」
「そうだ」
流石だ。ちゃんと聞いて欲しい所を確認してくれる。
まずそこが気になるよな。
ここに分かりやすい矛盾がある。
「その時に、凶器は刺さってなかったの?」
おぉ鋭い質問だ。
初めてこれだけ出来るなら、俺より探偵の才能がある。
「一瞬だったし、ハッキリとはしないが多分無かった」
「分かったわ。大事なことを教えてくれてありがとう」
「それなら良かった。カレウス、事件を解く鍵は現場と証拠品だ。俺が隠している手帳に、捜査の手順や考え方がメモしてあるから、行き詰まったらそれを見てから、不自然な点を見てみるといい」
「二重底になっているところにあったアレね。ちゃんと持ってきてるから任せてちょうだい」
「それじゃあまずは事件をまとめてみようか。まとめていると新しい気付きで疑問が出たり、謎に合理的な理由が説明出来ることがあるからな」
カレウスにそう説明しているが、実はある程度事件の真相は見えている。
犯人はまだ不明だが、状況証拠的に俺を釈放するには十分なくらいにはトリックは分かった。
犯人はえらく古典的なトリックを使ったのだな。
いや、この世界は殺人方法やミステリーが発展してないので、逆に革新的なトリックなのか。
◇◇◇
「そうね。それじゃあ事件を今からまとめていくわね」
レフちゃんに言われて、事件を自前の手帳にまとめることにする。
まず事件概要ね。
発生場所 王城のやや大きめの応接間
被害者 ナタリア・リーエン
容疑者 レフ・アネモヌン
死因 ナイフのような刃物で心臓付近を刺されたことによる失血死。
状況 部屋には鍵がかかっており、密室状態。
また部屋の鍵は室内にあり、マスターキーは使われた痕跡がない。
被害者に覆い被さるように、レフちゃんが大量の返り血を浴びて気を失っていた。なお凶器の刃物は見つかっていない。
おそらく被害者は部屋から出ようとして背後を向いたところで刺されたと思われる。
また部屋の奥の方にポーションが落ちていた。
調査結果
魔素鑑定の結果、部屋の中で魔道具や魔法が使われた痕跡はなかった。
しかし、部屋の外のドアノブの鍵穴付近と、廊下のドアノブの下にあたる部分から魔素痕が検出された。
また廊下の魔素痕はシミになっており、魔素を含んだ何かが落ちたと思われる。
だが、使われた魔法は弱く、魔素痕が少ないために使われた魔法の種類までは不明。
※ 王城内は魔法の出力が低下する上に、ピッキング系の魔法は騎士団に通報される仕組みになっている。
検死の結果
被害者よりも背の高い人間が、背後から刃物で刺しており、その際に心臓が傷つき、ほぼ即死状態だったと思われる。
遺体の衣服に乱れはなく、正面から争ったような抵抗痕は見られなかった。
奇妙な点として遺体の胃からポーションが検出された。
解剖した時間から逆算するとおそらく致命傷を負う前にポーションを飲んだと思われる。
レフちゃんの証言
入室後、部屋の奥で被害者が倒れているのを発見。
ポーションを取り出し、駆け寄ったところ背後から殴られた。
その際に多分凶器は刺さってなかったとのこと。
なら事件現場に落ちていたポーションはおそらくレフちゃんのものね。
「まずはこんなものね。今のところ重要そうな点はレフちゃんの証言と矛盾する死体の位置、胃の中のポーション、ドアノブの魔素痕ね。あと何故レフちゃんが犯人に仕立てられようとしているかね」
アタシがそういうと、後ろのドアがバンッ! と音を立てて開いた。
「それは私がお話しますわ! こちらに集まっている情報もお渡ししますので、デルン伯爵令嬢、グラド卿、ベルフラワー卿の3名は私と一緒に来てください。先生、もう少しだけ待っていてくださいね。必ずここから出しますので」
レフちゃんの前だからか、普段より元気なクリュザンテーメ殿下が現れた。
そして私たちは彼女に連れられて部屋を出た。




