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レフ・アネモヌンの事件簿〜転生探偵は現代知識で異世界の殺人事件を謎解く〜  作者: 和泉 弘幸


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名探偵カレウス 3




「カレウス・ベルフラワー卿。お久しぶりです」


「王女殿下、お久しゅうございます」


 久しぶりにお会いした少女は12歳とは思えぬほど、しっかりした態度で、母のサラクタ様の面影を確かに受け継いでいたわ。

 あとレフちゃんがいないから、ちゃんとした態度をとっていらっしゃるわ。

 


「ゆっくりと話したいところですが、時間がありません。さっさと本題に入りましょう。まず卿には陛下より事件解決までの捜査権が与えられており、事件現場と調査期間中は王城への出入りが自由になっております」

「次に事件解決という期間ですが、これは騎士団が正式な報告書をあげるまでとなっております。この件は教会や貴族たちも注目しており、いつ横槍が入るか分からないので、解決までの時間はあまりないと考えてください」


「委細承知致しました」


「結構。次に事件の概要を話しましょう」

「事件が起きたのは王城の一室です。被害者はナタリア・リーエン。死因はナイフのような刃物で刺されたことによる失血死。被疑者はレフ・アネモヌン。被害者に覆い被さるように気を失っており、服には大量の返り血を浴びていた点。また部屋には鍵が掛かっており、その鍵は部屋の机の上に置かれていました。マスターキーは厳重に管理されていて誰も触っておりません。なので最も疑わしいので拘束されております。あと凶器はまだ見つかっておりません」


「……確かに被疑者として拘束すべき理由はありますが、それ以上に何者かに仕組まれた感じもいたします。そもそも何故、ナタリア様はそのようなところにいたのでしょうか? アタシが聞いた話では俗世を断ち、神にお仕えしていると聞きましたが?」


「どうもゴールマ辺境伯に見初められて、後妻として嫁ぐことが決まって王家に許可をもらいに来たと、教会とゴールマ辺境伯はそれぞれ申しています」


「あまりに胡散臭いですが、レフ・アネモヌンには実家を追い出された恨みから殺害の動機はあるということですね」


「そういうことです。アネモヌン卿とすぐに面会するのは難しいでしょうが、必ず時間を作らせますので、それまでに何か手掛かりを掴んでください」


「お任せを。必ずやレフちゃんが犯人ではないという証拠を掴んでみせましょう」


「ちなみにですが、何故アネモヌン卿は犯人でないとお思いですか?」


「簡単なことですわ。アタシはレフ・アネモヌンの剣です。レフ・アネモヌンはナイフであろうと、アタシ以外の刃物で人を殺傷することはありませんもの。それでは早速ですが現場に向かいますわね」


 淑女としてきっちりとカーテシーを決めて王女殿下に頭を下げて、畏れ多くも殿下の膝上でモフモフと揉まれ、撫でられていた鳥畜生を連れて部屋を出る。

 

 

「さてレフちゃんとはまだ話せないでしょうし、先に現場に行っちゃいましょうか」


「ペン!」




 事件現場に着いて、騎士に話しかけて事件現場に入ろうとしたら見張りに止められちゃったわ。


「さっさと通しなさいよ! こっちは陛下とクリュザンテーメ殿下の許可を得て来てんのよ!」


「許可が下りたのはベルフラワー卿だけだ! お前のような見るからに怪しい奴ではない!」

 

「だからアタシがカレウス・ベルフラワーだと言ってるでしょ! あんまり疑うなら舌入れるわよ!」


 チッ! ——ほんと融通の利かないやつね。

 こいつぶっ飛ばして入ってやろうかしら。

 そうね。それがいいわ。王命に逆らう不届き者をぶっ飛ばすか、舌を入れた所でお咎めなんてあるはずないわ。


「待つっす! こちらの方は本当にあのカレウス・ベルフラワー殿っす!」


 右手を握りしめたところで横から慌てた声が聞こえた。


「この方はカレウス・ベルフラワー卿だと、ブーツ・グラドが名誉にかけて証明するっす」


「まさか! この怪しいメイド服の変質者が、名高きカレウス卿だと言うのですか!」


 さっきからこの男、ほんと失礼しちゃうわね!

 騎士らしく剣で語った方が早いかしら。

 ……いや、その必要はなさそうね。

 ブーツ卿が話をつけてくれたみたいだわ。


「し、失礼致しました! お通りください。存じているとは思いますが、中の物には触れぬようにお願いします」


「そこは自分がしっかり見張ってるから安心するっす!」

 

 ようやく頭の硬い騎士がドアの前から退いたので中に入れるわ。


 ドアを開けた先、そこは何度も嗅いだ血の匂いが残っていて、入るとちょっと空気が不快だわ。

 部屋の中はやや大きめの応接間で、中位〜高位貴族がちょっとした密談に使う部屋みたいね。


 中央には長机と椅子が並び、壁際には暖炉があって、窓には厚い垂れ幕が外光を遮って、いかにもちょっといい応接間って感じね。

 豪奢というよりは、長時間の会談に向いた実務的な造りの部屋として作ったみたいだわ。


 そんな部屋もドアに向かって人が倒れていたことを示す、遺体の輪郭をとった石灰の線と生々しい血痕で台無しね。


 この痕跡を見た感じだと、普通に部屋から出ようとしたか、逃げようとして背後から刺されて亡くなったようね。


 その後ろにもう1つの線があるけど、これが多分レフちゃんね。

 なんで後ろから人を刺殺した犯人が、覆いかぶさって倒れるのよ。

 普通にあり得ないでしょ!

 

 まあいいわ。あとは血痕が飛び散ってるってことは刃物を抜いたのね。

 凶器はまだ見つかってないとのことだけど、確かに錬金術師なら凶器のナイフなんて簡単に消せちゃうから、疑われた理由も分からなくはないけど、普通に持ち去ったと考えた方がいいと思うわ。


 あとは部屋の奥の方にポーションが落ちていたみたいね。

 グラド卿が騎士に聞いてくれた話では襲われた際に、どちらかの持ち物が落ちたものと考えられてるらしいわ。

 あとは机の上に問題となった鍵が置いてあるわね。


「さてとりあえず魔素鑑定からやっちゃいましょうか。レフちゃんが言ってたけど、慣れないうちは部屋中を粉だらけにするつもりでやった方が結果的に楽らしいし、見落としもないらしいからやっちゃいましょうか」


 魔素鑑定。

 レフちゃんの功績の1つで、使われた魔法に反応して発光するよく分からない粉を、袋に入ったそれごと叩きつけるようにして、部屋中に充満させる。


「ゲホッ! こ、これ思ったより粉まみれになるわね」


「ま、まあ慣れっす! 自分たちも導入された頃は粉まみれにしてたっす! 簡単に落ちるから後で掃除すればいいって粉まみれにして魔素痕探してたっす」


「んもう。手まで粉まみれになっちゃったわ」


 部屋中を粉まみれにしてみたけど、どこも光っていなくて、この部屋で魔法が使われてはいないみたい。

 レフちゃんが言うにはどんなものでも魔法を使えば必ず、空気中の魔素が反応を起こして、魔素痕跡が残ると言っていたから、凶器を錬金術で分解して隠蔽したということも無さそうね。


「魔素鑑定をしたけど、これといった手掛かりはないみたいっすね」


「そうでもないわよ。少なくともこの部屋では魔法を使っていないのは大きな手掛かりよ。錬金術も魔力を使う以上は魔法の一種だし、魔道具も使ってないみたいね」


 手掛かりがないというのもまた手掛かりになる。とレフちゃんが言っていたものね。

 何か落ちてないか探してもいいけど、既に騎士団が捜索した後だし、多分何も見つからないでしょうね。


「魔素痕は見つからないし、部屋にあった事件に関係ありそうなものは騎士団が調べてるはずだし、この場所にはもう用は無いと思うっす!」


「アタシもそう思うわ。いつでも来れるし、必要ならまた後で来ましょうか」


 ブーツ卿と2人で部屋を出て、部屋の前にいた騎士に声を掛けた時に、ふと忘れ物に気がついちゃったわ。


「あっごめんなさい。部屋にペットを閉じ込めちゃったわ。連れて帰るからちょっと開けるわね」


 ドアを開けると、扉の前で不満げに鳥が立っていた。

 まるで忘れるなと言わんばかりのオーラを出しているわ。


「グェッ!」


「はいはい。ごめんなさいね」


 レフちゃんのペットを回収したし、次は遺体のことを聞くか、レフちゃんの逮捕時の様子を詳しく聞こうかしら。


「グェェ! グェグェグェッ!」


「んもう。どうしたのよ? ……えっ?」


 振り返ると思わず声が出てしまった。

 レリヴァがドアノブに向かって鳴いていて、そのくちばしの先には、アタシが粉まみれの手で掴んだドアノブが微かに発光して、魔法が使われた痕跡を示していた。

 

「どういうこと? いや、考えるより魔素痕を取るべきね。ブーツ卿! 魔素鑑定をちょっとこの扉に向かってやってみてちょうだい!」

 

「任せるっす!」


 ドアに向かって粉をふりかけると、ドアノブと何故かその下の廊下の一部が発光して、魔素痕があることを示した。

 ドアノブは鍵穴を中心として反応し、鍵穴の中で強く発光し、何故かドアノブの真下にも発光したわ。

 けどこの光り方だとちょっと何の魔法かまでは分からないわね。

 魔素痕で魔法を識別しようと思うと、たくさんの魔素痕が必要なのだけど、これは使われた魔法が弱くて痕跡も少ないみたいだわ。


「これはどういうことかしら? ドアノブをみるに、鍵穴に何か魔法を使ったのは間違いなさそうね。あら? 下の魔素痕があるところ、シミになってるわね。魔力を含んだ何かがシミになったのかしら?」


「そうっすね。鍵穴の周りにもついているなら、ピッキング系の魔法でもなさそうな気もするっす! それにピッキング系はめちゃくちゃ警戒されてるから、王城で使うとすぐに騎士団に連絡が行って、飛んでくるようになっているはずっす!」


「それはそうなのよね」


 彼が言う通り、王城でピッキングの魔法はもちろん、古典的に針金を差し込んでも分かる仕掛けになっていたはず。

 だから専用の鍵を差し込んで回さないといけないのよね。

 この鍵穴がどこまで魔法への対策をしているかは、アタシたちは知らないし、王城内は魔法の出力がかなり低下するようになっているから、大きな魔法は使えないはずよね?


 ……ダメね。さっぱり分からない。

 アタシにはこれが何を指しているのかまだ分からないわ。

 だからこそ、レフちゃんが毎回しているように、分からないことは分からないまま、正しく情報をメモする。

 こういう奇妙な点が解決へと導くと知っているもの。


 アタシは鍵穴とその周辺と下に魔素痕が残っていたことをメモする。


 現場を見たし、次は遺体の確認と司法解剖の結果を聞きに行こうかしら。

 王城での事件なら多分デルン家の誰かが遺体を調べているはずだわ。



 

 

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