側妃暗殺事件の概要と王城からの使者
姉上の事件資料を読んだ俺はカレウスに不可解な点を話すことにした。
「サラクタ側妃暗殺事件は世間に発表されてない重大な矛盾があるんだ」
「重大な矛盾?」
「死体が見つかってなく、実行犯も不明。ではなぜ死亡が確定して、暗殺事件なんだ? 普通に考えたら失踪事件だろ」
「それもそうね。アタシはそもそも死体が見つかってないのは初めて聞いたわ。実行犯は捕まってなくて、当時のサラクタ様の護衛の責任者であるスーニー・グラド騎士団長が責任を取って自決したとは聞いてるわ」
スーニー・グラド卿。
騎士団の実力者であり、ブーツ卿の実の兄で、俺も何度か面識があるが、真面目で良い方であった。
彼が亡くなり、グラド家は大変だったようだが、ブーツを見る限りは騎士団内でも気にかけてもらっているのかもしれない。
「姉上の事件の概要だが、事件当日は正妃様と陛下の結婚十周年パーティの翌日。北側に面している隣国の姫が陛下、当時の王太子に嫁いで同盟を締結した、同盟締結十年目のパーティとも言われていた。その両国の貴族や教会関係者など権力者が集まり、ある程度は城から離れた日に事件は起こった」
翌日とはいえ、他国の者も巻き込む大事件だな。
警備は厳重だが人の出入りが多く、バタバタしている日を狙って準備して、パーティ当日にやると政治的問題がすごいことになるから翌日にしたって感じか?
いやそもそも死体が見つかってないなら、普通は真っ先に拉致、誘拐を疑うべきだよな、、、
どう考えても資料には意図的に書かれてないことが山ほどある。
「事件が起きたのは夕方頃、王城の姉上の部屋で起こったらしい。1人になりたいと言って、2人の護衛をドアの前に残して、部屋に入って五分くらいしたところで悲鳴が聞こえた。悲鳴を聞いた護衛が突入すると大量の血痕が床を汚し、部屋には魔物がいたらしい」
「そして騎士は応戦するが苦戦していたところに、ゴールマ辺境伯が駆けつけ、魔物を討ち果たした」
「だが姉上はどこにも見つからず、部屋にはいたるところに大量の血痕を残して姿を消した。周りの者の証言では亡命などを考えている様子はなく、日々の生活に満足し、子供を可愛がっており失踪理由は不明、犯人の要求や犯行声明もなかった点から誘拐の線は薄い。またゴールマ辺境伯と魔物が争ったためか、部屋はかなり荒れて、家具や私物が破壊されていたと資料には書いてある」
「情報が少ないわね。明らかに不自然だし、これ絶対陛下とかの指示で情報の隠蔽されてるでしょ」
「だろうな。話を聞いてみたいが護衛の2人と責任者のスーニー卿は既に責任を取って亡くなっている。関係者の中ではゴールマ様はご健在だが、辺境伯に直接話を聞くのはなかなか難しいな」
ゴールマ辺境伯はもう60歳ほどで家督を譲って隠居してもおかしくない歳だが、まだ現役で国境を守っている。
そんなお方に直接話を聞くのは父でも難しいので、俺では話をすることも出来ないだろう。
「そういえばゴールマ様は確かこの時に裁判を受けることになったわよね? あれなんでだったかしら?」
「あぁ王城内で剣を抜いたからな。しかも側妃とはいえ、王族の部屋で抜剣してるからだ。一応規則では騎士団以外は混乱を避けるために有事の際でも抜剣は禁じられている。とはいえ状況が状況で正当な理由だから、本来は必要ないんだが、ゴールマ辺境伯は規則は規則であり、ケジメは必要と裁判を望まれたんだ。今後、似たようなことが起こった際に萎縮してしまわないように抜剣に値する理由だったから、判決は数日の謹慎と報奨金が与えられた」
「流石に詳しいわね」
「特別措置とはいえ、王城での抜剣した事件の事例だからな。この時はもう王城を出ていたが、法律家として注目していた事件だったんだ。裁判は前例に従うことが多いからな」
「なるほどねぇ。それはそれとしてゴールマ様に話が聞けないとなると、どうしたらいいのかしらね?」
「現場の確認、姉上の侍女から話を聞くとかはしてみたいな。あとは姉上が暗殺される前に何をしていたのかも出来れば探りたい」
口に出して言ってみたが今の俺にはその伝がない。
ついでに言うと口実もない。
貴族から距離を置いた時点で分かってはいたが、こればっかりはどうしようもない。
「はぁ、、、仕方ない。情けない限りだが権力を頼るか」
「あら? アネモネー閣下を頼るのかしら?」
「いや。姉上の子で、俺の姪っ子、甥っ子であるクリュザンテーメ殿下かプリュネル殿下のどちらかかな」
「あ〜世話役として色々教えて慕われてたもんね。仕事を辞めてめちゃくちゃ拗ねられて恨まれてるらしいじゃない」
「そうなんだよ。仕方ないとはいえ姉上の後ろ盾なしで、2人の傍に居られるわけがないからな。その時は父上もそんなに王城に対してアプローチしてなかったし」
「完全にこちらの大人の事情だけど、まだ子供である2人には関係ないものね」
「そうなんだ。父上を経由して泣きつくか」
「ねぇちょっと気まずいなら陛下ダメなの?」
「いやダメだろ? ……ダメだよな?」
「要するに適当に仕事をもらえばいいんじゃないの?」
「めちゃくちゃダメだと思う。俺もカレウスも陛下と面識はあるな。俺は覚えが良かったはず。名誉貴族に命じていただいた際に側仕えを打診されたし」
「アタシは騎士団からはずっとラブコールを貰ってるわよ」
「……いけそうだな。やっぱり辞めておこう。危険すぎる」
「そうね。陛下は頼もしく素晴らしいお方だけど、まだ若く地盤が磐石じゃない。野に下った者に直接関わるのも良くないわ。殿下なら血縁関係があるし、アネモネー前伯爵閣下がなんとでも手回しをしてくれるし、頼るならまずはそちらね」
「けど結局、俺たちが調査する理由がないんだよな。姉上の事件は捜査資料ですら持ち出し厳禁で、閲覧にも許可がいる。しかもかなり上の人間が情報を隠蔽してる。絶対アネモネー家より高位貴族か、他国か、教会のどれか、あるいは複数関わってるだろ。そんな中でホイホイ調べさせてくれるわけないし、当時の侍女すら探すのは骨が折れそうだな」
うーん。考えれば考えるほど難しい。
そうなると教会から当たるべきか?
けど教会も犯人候補だし、敵に回した際の厄介さは困るんだよな。
「まず捜査の大義名分が欲しいわね」
「それは確かにそうだよな。こそこそ調べてたら逮捕どころか消されかねない。となると最低でも父上、出来たら王族の命令が欲しい。んーちょっとヤバめの取引をしたら陛下は動かせるかもしれないが……」
「なんでよ! なんで国王と取引できるのよ!」
「カレウスに言う必要がなかったし、むしろ言わない方が良かったから、言ってないだけで賢者の石の作り方とエリクサーのレシピ知ってるから」
「おバカ! 伝説上のものをサラッと言うんじゃないわよ!」
あまりにプリプリ怒るカレウスが少し面白い。
こういう反応も新しいな。
「伝説上というけど、多分秘匿されてるだけで知ってる国はありそうだぞ。あれはイカれた腕のいい錬金術師が閃けば作れるぞ」
そう。エリクサーも賢者の石も要求されるのは、高度な錬金術の知識と豊富な魔力があれば作れるのだ。
この2つの作り方は似ているが、多分先にエリクサーが作れる。
そもそもエリクサーは乱暴にいえばポーションの上位互換だ。
なら発想はポーションと同じで、薬草などよりエネルギーがあり、人体に適している素材からエネルギーを抽出してやればいい。
「も、もしかしてレフちゃん思いついたから作っちゃたとか言う?」
「いや。何となく出来そうだとは思ったがやらなかった。ただ陛下に、古代の錬金術師が残した賢者の石をもらってエリクサーを作ったことならあるし、賢者の石を触ってみて、石からポーションを作れてしまうことを考えたら、エリクサーも賢者の石も作り方が分かったぞ」
「嘘でしょ!?」
「カレウスに嘘を言うわけないだろ。ただこれは悪いが本当に危ないし、人類はこれを知らない方がいい。あっ疑うならエリクサー見せてやろうか? 3本だけ持ってるぞ」
渡された賢者の石は非常に大きく、エリクサーを100本近く作れた。
なので成功報酬としてアネモネー家に10本、姉上に10本、俺に3本もらったのだ。
レシピの提出を求められたが、賢者の石のレシピが分からないので無理と答えたが、多分賢者の石なしでも作れるし、必要素材の少なさなら石を経由しない方が素材は節約できる。
「要らないわよ! ……いやちょっと見たいけど見たくないわ!」
「なら代わりに原材料教えてやろうか? エリクサー見た方が良かったと思えるレベルだけど」
「見ないって言ってるのに嫌な2択を突きつけるんじゃないわよ! 突きつけるのはその指と法律家のバッチだけにしておきなさい! 見ない! 聞かない! 知りたくない!」
「まあ原材料を知ったところでまだ作れないさ。あと数百年は作れないと思う」
「サラッと言うけどなんで数百年後の知識持ってるのよ」
「錬金術は知識の秘匿が多いんだよ。その秘匿された状態だと理論と発想がまず難しくて、何より必要な知識を得るのが難しいんだ。俺は伯爵家と王家で学んで、魔力も多くて恵まれてるから出来たんだが、そうじゃないとそんなもんだろな」
一応嘘はない。
ただ前世の知識という恵まれたものを隠した。
そもそも錬金術は無差別殺人や遺体を完全に分解か別物質に変えて隠蔽出来るから無闇に知識をばらまけない。
数百年と言ったがポーションと回復魔法で治せてしまうこの世界だと人体の構成物質を知るのに時間がかかるか、逆に簡単に解決されるかもしれない。
「ねぇレフちゃんが王家にすら賢者の石もエリクサーの作り方も教えてないのって、もしかして意外と簡単に出来てしまうけど、作る際に危険があるから? いや違う。危険なのは錬金術は失敗したら全部そう。危険性が高い、、、それなら安全性を高めたらいい。人死が出る? イカれた――」
「カレウスそこまでだ。知らない方がいいぞ。それだけで命が狙われる理由になる。悪人や貴族だけじゃなくて教会も敵に狙われる」
頭が切れるやつは危ない。
多分カレウスなら辿り着いてしまう。
「エリクサーの素材は生きた人間ね。なるほど。そりゃ葉っぱなんかにある回復作用より、人間の持つ回復作用を抽出した方がいいに決まってるわね。こないだレフちゃんが言ってた、人が本来持つ回復機能ってやつを無理矢理絞り出すのね。恐らく人由来のものだから副作用も少なく、高濃度で作れて馴染むのね」
「……ご名答。これからはカレウスが探偵をしてくれてもいいぞ。秘密のメモ帳は引き出しの中だ。二重底になってるから下から羽根ペンを差し込んで底を上げて取り出して使っていいぞ」
辿り着いてしまったカレウスに拍手をする。
理屈もだいたいあっている。
カレウスなら一流の錬金術師にも名探偵にもなれるだろう。
「まったく。命を狙われる? 上等じゃない! レフ・アネモヌンの代わりにアタシが狙われるなら本望よ♡」
「ほんと君には敵わないな。まあエリクサーのレシピを教えるかどうかは別として父上に相談してもいいかもな。何か大義名分を考えてくれるかもしれん」
「それもそうね。独断で動くよりも閣下と相談して慎重に動きましょう」
基本的な方針を決めると、事務所のドアをドンドンドンっ!!!と忙しなく、乱暴なノックがされた。
「レフ・アネモヌン卿!! 至急、王城にお越しください! 殿下がアネモヌン卿を至急お呼びするようにとのことです!」
それは風雲急を告げる知らせだった。
ここまでお読みいただきありがとうございます。
明日からの投稿は毎日1話、18時投稿とさせていただきます。
最終話まで完成しているので、エタることはなく間が空くこともないので安心してお楽しみください。




