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レフ・アネモヌンの事件簿〜転生探偵は現代知識で異世界の殺人事件を謎解く〜  作者: 和泉 弘幸


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レフ・アネモヌンの過去 2




◇◇◇

 


「レフ。貴方、この家から出ていきなさい」


 その一言に、本当にこんな日が来るのかとぼんやり思った。

 父が不在の日に義母ナタリア様に呼ばれて、執務室に行くと義兄のリアソン兄上が並んでおり、その後ろには2人の男が帯剣している中、開口一番にとんでもない発言をなされた。

 

 とりあえず抵抗してみるか。


「誰ぞあるか! 母上はお疲れのようだ!」


「アハハなんて愚かなの! 誰も来るわけないでしょ! 穢らわしい妾の子に味方する者などいるはずがありません!」

 

「この期に及んで状況を理解できぬ馬鹿を、何故父上も兄上も評価するのか」


 そうか。誰も来ないか。本当に残念だ。

 ナタリア様にはもっといい方法が思いつかなかったのだろうか? と思うが、ここで死にたくもないので大人しく従うことにするか。


「承知致しました。それではヴィーゼ王国法46条により、父から私に与えられた私物だけ持ったらすぐに出ていきます」


「待て! 父上からお前が与えられたものは全てアネモネー家の物であり、俺のものだ!」


「私物の回収も許さず、家から追い出したとなるとナタリア様とリアソン様の名に傷がつくことになりますがよろしいですか? 後でゴネられても面倒でしょうし、王国法に則った方が良いと思いますが?」


「……さっさと持って出ていきなさい。二度とアネモネーの名を名乗らぬように」


「承知致しました。それではすぐに出ていきます」


 まさかここまでとは思わなかった。

 仕方ないと割り切ってすぐさま思考をまとめる。

 まずは生き残ることが第一だ。

 どうすれば生き残る確率が高いか。


 よし! ここは子供らしく、そして大人がいるところに助けを求めよう。

 方向が決まったのですぐに荷物をまとめようか。

 

 ポーション、爆薬、ポーション、閃光弾、ナイフ、父からの未開封の手紙、ペン、音響爆弾、財布。


 ちょっとしたテロどころかこの屋敷なら吹き飛ばせるくらいの準備が出来てしまった。

 

 サンキュー、錬金術と伯爵家。

 

 爆薬は超高濃度酸化液と高エネルギー燃焼薬と混ぜることで爆発するものをそれぞれ用意して、専用の容器に入れた後に魔力を流すか物理的に仕切りを取れば爆発する仕組みのもの。

 混ぜたら化学反応で強烈に光る閃光弾。

 ピンを抜けばガスが発生してその圧力を逃がす際に大音量が発生する仕組みもの。


 最初の1つはポーションに偽造して、残り2つは水筒のようになっている。

 まだこんな危険物は世に出してないが、最初のやつは危険すぎて出すことはないと思う。

 閃光弾も非常に危険なので、流通させるとしたら最後のやつくらいだろう。

 貴族や冒険者に持たせたら救援信号として使えるから需要はそこそこありそうだからな。


 荷物を詰め終わり、出ていく前に怖い顔をしている見張りの2人に声をかける。


「お前ら2人は分かって協力しているのか?」


「…………」


 一応問うてみるが返事はない。

 ということはこいつら俺を追い出すと知っていたのだ。

 そうか。本当に悲しい。

 ここに来て数年経つので他にも顔知りがいる。

 しかし、俺のことを気遣ってくれた使用人達は休みか父について行ってるようで救いがある。


 あぁ本当に悲しい。

 おそらく今ここにいる彼らともう二度と会うことは無いのだから。

 


「今までお世話になりました」


 頭を下げて屋敷から出るとすぐに駆け出す。

 外は完全に日が暮れており、夜が深くなればなるほど、危険が増すのでスピードを心掛ける。

 俺なら絶対に追っ手を出して殺して、死体を川にでも投げ捨てるだろう。

 追い出して放置などという中途半端は絶対にしない。

 教会に出家させないなら、邪魔な身内は地下牢に監禁か始末するしかない。

 屋敷から出れらてしまったということは絶対に殺しにくる。


 

 最短で真っ直ぐ目的に向かうか、回り道をして追っ手がいるかを探り、いたら撒くことを考えたが、真っ直ぐ目的地に向かう事に決めた。


 後ろを振り返ることもせずに街の中心部へと駆ける。

 体力には自信がないが、流石は伯爵家の屋敷だ。

 実にいいところに住まいを持っている。


 貴族が集まるこの場所なら、仮に追っ手に襲われても助けが入る可能性は十分にある。

 誰も来ないなら音響爆弾か閃光弾で無理矢理にでも警備の者を集めてやるつもりだったが、不思議と追っ手の気配はない。

 

 何の妨害もなく目的地が見えてしまったところで、こんなガバガバ計画で追い出されたのかと悲しくなったが、気持ちを切り替えて足を動かす。

 カバンから手紙とナイフを取り出して、最後の力を振り絞り、全力で目的の場所まで駆け抜けた。


「何者だ!!」


「……はぁはぁ。私の名はレフ・アネモネー! 側妃サラクタ・ヴィーゼ様の弟です! 火急の用にて至急、サラクタ様にお目通り願いたい! 急ぎこちらの書状をサラクタ様に届けるように命じられております! これは身分の証明のための紋章入りのナイフです! 一大事にてどうか! どうか! 早急にお伝えください!」


 言い終わるとその場で倒れ込む。

 久々に限界を超えたダッシュで指一本動かしたくない。


 それを見た門番の1人が慌てて人を呼びに行き、ただならぬ気配を感じ取ってくれたもう1人の門番が俺を守るように立ってくれた。

 流石は王家に仕える兵士だけあって、状況の判断が早い。


 嘘は何一つ言ってない。

 本当に一大事なのだ。俺にとってもだし、アネモネー家的にも大問題だ。

 あぁ義母には家名を名乗るなと言われたが普通に嘘だ。

 バカ正直に従ってやる必要など全くない。


 流石は子供の体と言うべきか少し倒れ込んだら息がすぐ整う。

 まだ呼吸は荒いが立てるようになったので立ち上がると、血相を変えた人たちと、見覚えのある数名が、わらわらとやってきて俺を迎え入れてくれた。

 


◇◇◇




「レフちゃん。初手で後宮目指したの?」


「そりゃ子供なんだから大人を頼るのは当然だし、より安全な場所で、しかも身内がいるならそこに逃げるだろ」


「現当主のお兄様のところには行かなかったの?」


「王都から兄の領地に行くまでに危険もありそうだし、追っ手のことを考えたら、相手も好き勝手に動きにくい貴族街の方が合理的だ」


「そうなんだけど可愛げのない子ね。ちなみにその後はどうなったの?」


「姉が実家から連れていった使用人に身元を証明してもらい、面会してもらって、いくつかの嘘を謝った」


「あら? なんの嘘なの?」


「用件を記した書状なんてないし、実際はそこまで火急では無かったからな。父上が帰ってきたら解決する用件だからな。とはいえ継承権を持つ俺を、正当な理由なく追い出すのは謀反を考えていると捉えられても仕方ないから大事な用でいいのか? まあ実際その後に帰ってきた父に2人とも厳しい教会にバラバラで放り込まれて、追放騒ぎに関係した者はその後、見当たらなかったもんな」


 その時の関係者がどうなったかなんて聞いていない。

 あの2人が生きているということは誰かが責任を取ったのだ。

 彼らも伯爵家にいるのなら親が騎士爵や男爵だったりする。

 そんな生まれの者が知らなかったでは済まされない事をしでかしたのだ。

 継承権のあるものを追い出した、兄に当時は実子がいない。では次はどうなる?

 どう考えても良からぬ企みをしているとしか言えず、弁明しても無意味で、それを知って協力した者も同罪とされるのは当然の世界なんだ。

 


「まあそれがまかり通るなら主人がいないタイミングで跡取りを宣言して、好き勝手に決められちゃうもんね。その時はアタシはまだサラクタ様付きになっていなくて、騎士団に新人として入った頃かしら?」


「確か俺がカレウスと初めて会ったのは、もう少しあとだったな。俺がクリュ様達の教育係になってから会ったはず」


「多分そのくらいね。ところでさっき聞かなかったことにしたけど、やっぱり怖いから聞いていいかしら?」


「ん? なんだい?」


「さっき言ってた爆薬って今も持ってたりする?」

 

「まさか! あんな危険な物は持ってないさ」


「……レフちゃん。あと1ついいかしら? もしかしてもっと強力かつ安全性を高めた爆薬なら持ってたりする?」



「…………俺は君には嘘をつきたくない。だが知らない方がいいこともあると思うんだ。例えば錬金術で作っただけで、化学反応は魔法じゃないから王城の魔法対策を無視して起爆できて、王都を火の海に出来る危険物なんて知りたくないだろ?」


「ちょっ! バレたら翌日には死体が吊るされてるわよ!?」


「流石に嘘だ。理論上作れないこともないが、軍事兵器は作りたくないからな」


 

「それなら良かったわ。いやちょっと待ちなさい! 誤魔化すんじゃないわよ! ちゃんと答えないと舌入れるわよ!」


 

「お、おぉ……。いざという時のために安全性を高めて、魔力無しで城の壁をぶち壊せるやつや、襲い来る兵士から逃げるための色んなものなら持ってるぞ。作ろうと思えば、魔力が必要になるが王城くらいなら粉々にできるやつもないことはない」


「ちょっとほんとやめなさいよね!? 可愛い甥っ子、姪っ子まで連座する大事件になるじゃない!」


「理論上出来るだけなら許されるさ。大魔法使いだって星を降らせたら王城の仕掛けなんで無視して破壊できるんだから、俺も理論上だけなら問題ない。そもそもやってみたら出来ませんでしたって可能性もあるし、実験もしてなくて頭の中にあるだけなら無罪だ」


 意外とこの国の法律制度はしっかりしており、推定無罪の原則まである。

 まぁあるだけで貴族や王族は普通に無視出来るからあるだけなのだがな。


「ねぇレフちゃん。そこまで教えてくれたってことはアタシを信じてくれてるのよね?」


「何をいまさら。カレウスが俺に仕えてくれた日から君は俺の剣であり、運命の担い手だ。だから俺は剣を持たない。そして君が死ぬ時は俺が死ぬ時だ。俺が死んでも君は生き残るが逆はありえない。俺の命を預けられる友はカレウス。君だけだ」


「サラッと重いことを言わないで欲しいわ。……興奮しちゃうじゃない♡」


 それは武人としての歓喜、あるいは単なる劣情なのか。

 俺には分からない。

 だがこの世界で得られた最もありがたく尊い者は家族を除けば、間違いなくこの友(カレウス)だ。

 2度目の人生で得た、こいつになら裏切られて死んでもいいと思えるかけがえのない終生の友。

 まあ先日まで以前に会ったことも忘れて、普通に使用人兼友人と思っていたのは内緒だ。



「って違う。そうじゃないわ。分かってるでしょ。意地悪な人ね♡」

「アタシに命を賭けてもいいと言うなら話しなさい。アナタの命を狙うのが王なら王を。神なら神を。誰でも討つ覚悟があるわ。だからこそアナタが抱えているものをアタシ、カレウス・ベルフラワーにも背負わせてちょうだい」

「レフちゃん。アタシは貴方専属の爆乳ムチムチオネエさんパーフェクトメイドなのだから」


「…………姉の死には間違いなく教会上層部、高位貴族が関わっている。聞いてしまったら後戻りはできない。今さら覚悟は問わない。だから俺に力を貸してくれカレウス」


「アタシの答えは決まっているわ。御身が望むままに。貴方が望むなら地獄の底まで共に参りましょう」


 俺はなんと素晴らしき友を得たのだろう。

 カレウス程の心と力があれば出世も望むままだったはず。

 俺はこの素晴らしき友人に報いてあげたい。

 心からそう思う。


「事件の概要を話す前に少しだけ時間をくれ。ちょっと渡したいものがある」


「もちろん。いい女は待つ時間も楽しめるものよ♡」


 カレウスがそう言ってくれたので少しだけ待たせて、部屋からある物を錬金術で少し形を変えて持ち出した。


「念のために言っておくがこれに特別な意味はなく、魔力の通りが良くて、流れを安定させる為の実用的なもので特別な意味はない。本当に特別な意味はないのでそのままの意味で受け取って欲しい」

「俺が錬金術で加工したターコイズのペンダントだ。魔力を留めておくのと、精神安定の作用、軽い呪いへの耐性がある。姉上の護身用にプレゼントした物を少し形を変えただけで申し訳ないが持っておけ。あれば意外と役に立つ」


 カレウスに手渡したのは桔梗の形に整えたターコイズをペンダントにあしらったもので、姉上に作った際に予備として作ったものだった。


「とっても素敵ね。うちの紋章の桔梗にしてくれてありがとう。これ大切にするわね」


「そうしてくれるとありがたい」

「さてそれじゃ姉上の事件の話をしようか」


 これを語ってしまえばカレウスも巻き込まれる。

 相手の正体は不明だが側妃を暗殺するなんて、絶対に高位貴族が関わっているだろう。

 得体のしれない相手を前にカレウスを巻き込むのは申し訳ないが、それよりもカレウスも協力してくれることが心強かった。



「姉上の事件を話す上で特に大事なのは、いまだに死体が見つかっていないんだ。それなのに王家が姉上が死亡したと公式で発表したことだ」


この不可解なことには必ず何かあると俺は睨んでいた。

 


 


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