第5話:予想以上に素敵な街です
「あれが海なのね…初めて見たわ」
汽車の中でつい声を上げてしまった。ついにレックスィンに入ったのだ。汽車の窓からは、真っ青な美しい海が見える。なんて美しいのかしら?
そして汽車を降りると、深呼吸をした。
「空気が美味しいわ…本当に素敵な街ね」
ついそんな事を呟いてしまう。すると
「君、見かけない顔だね。若い女性が、こんな何にもない街に来るなんて、珍しい」
駅員さんが話しかけてきたのだ。
「初めまして。私はマリー…、マリアナと申します。この街の素晴らしさを本で読んで、この街で暮らしたくてここに来ましたの」
「こんな何にもない街で暮らしたいだなんて、物好きもいるものだな。若い人間は、すぐに都会に憧れ、王都を目指すのに」
そう言って驚いている駅員さん。いけないわ、つい本名を言いそうになってしまった。とっさにマリアナと言ってしまったので、とりあえずマリアナと名乗る事にしよう。
こんな事なら、どんな名前にするか、事前に決めておけばよかった…
「マリアナちゃんと言ったね。この街に住みたいなら、まず役場に行ったらいいよ。駅を出たらすぐに右に曲がり、しばらく進むと大きな建物があるから、そこが役場だ」
「教えていただきありがとうございます。それでは、早速行って参りますわ」
駅員さんに頭を下げた。
「マリアナちゃんは随分と礼儀正しい子だな…どこかのご貴族様かと思うくらいに…」
貴族ですって…いけないわ。私ったらつい…
「あの…私は…」
「でも、こんな田舎に、ご貴族様がいらっしゃる訳はないか。この街の人間は、ガサツなのが多いから、礼儀正しい子を見るのが珍しくてね」
そう言って駅員さんが笑っている。確かにこの街に貴族が来ることはまずないだろう。でも、油断は出来ない。目立たない様に、動作には気を付けないと!
気を取り直して、駅員さんに教えてもらった通り、役場を目指す。確かこの辺りよね…
あっ、もしかしてあれかしら?
この街の作りにしては、大きめの建物を見つけた。早速入ってみる。
「こんにちは、こちらが役場でよろしいですか?」
「まあ、可愛らしいお嬢さんだ事」
40代くらいの女性が、すぐに出てきてくれた。
「あの、私、この街で暮らしたいのですが」
「まあ、あなたの様な若い女性が?こんな田舎の何にもない街で?」
不思議そうな顔で呟く女性。
「あの…私の様な若い女性が、この街で暮らすのはダメなのでしょうか?」
不安になって、女性に聞いた。すると
「ダメだなんてとんでもない。この街はあまり若い人間がいないから、大歓迎よ。あなた、家族は?」
「父がおりますが、継母が私を嫌っておりまして…母は私が幼い頃に亡くなってしまって…」
「嫌な事を聞いてごめんね。継母に虐められて、それで1人で暮らすためにここに来たのね。意地悪な女ってどこにでもいるのよね!わかったわ、すぐに移住権の手続きを行いましょう。35,000ベラいるのだけれど、支払える?もし無理そうなら私が立て替えてあげるわよ」
初めて会った私の為に、立て替えてくれるだなんて。この女性、何て親切な方なのかしら?
「ありがとうございます、でも、お金は準備しておりますので大丈夫ですわ」
そう言って、お金を出した。その後必要な書類にサインをして、無事移住権を手に入れた。
「マリアナちゃんと言ったわね。それで、住むところはどうするつもりなの?」
「これから探そうと考えております。出来れば不動産を取り扱っている人を紹介して頂けると、助かるのですが」
「それだったら、家の隣の空き家を使うといいわ。少しボロいけれど、掃除をすれば十分住めるわ。あなた、若いのに苦労してきた様だし、私に任せて。ちょっと早退の手続きをしてくるから、ここで待っていて」
「あ…あの…」
凄いスピードで奥に引っ込んでいった女性。私の為に、わざわざ早退をしてくれるだなんて…
「ルーマさんはお節介で有名なのよ。特にあなたみたいな若い子には、世話を焼きたくて仕方がないの。ごめんなさいね」
そう言って近くにいた女性が、教えてくれた。あの女性は、ルーマさんという様だ。
「さあ、マリアナちゃん、行きましょう」
ルーマさんに連れられ、一旦役場を後にする。役場を出ると、すぐにお店が並んでいる通路があった。
「ここがパン屋さんで、こっちが八百屋さん、ここが魚屋さんよ」
ルーマさんが色々と教えてくれる。さらに
「ルーマさん、可愛いお嬢さんを連れているじゃないか?」
「この子は今日からこの街で暮らすことになった、マリアナちゃんだよ。いいかい、手を出すんじゃないよ!」
お店の人も気さくに声を掛けてくれている。
「マリアナちゃんか。可愛いね、よろしくね。そうだ、この果物、あげるよ」
「このパンも美味しいよ」
「取れたての新鮮な魚だ。可愛い子が来てくれたお祝いに」
そう言って、次々と食べ物をくれるお店の人たち。
「こんなによろしいのですか?ありがとうございます。マリアナです、どうぞよろしくお願いいたします」
男性たちにぺこりと頭を下げた。
「全く男どもときたら、油断も隙も無いのだから!」
隣でルーマさんが怒っているが、見ず知らずの私にこんな風に親切にしてくれるだなんて、やっぱりこの街の人は、とても親切だ。




