第35話:お母様が残してくれた証拠の数々
奥様がゆっくりと鍵穴に鍵をさし、回した。
ガチャリという音と共に、箱の中を開けると、そこには手紙と鍵。それから、小型の録音機が入っていた。
早速奥様が手紙を手に取り、読み始めた。一体何が書いてあるのかしら?気になって仕方がない。全てを読み終わった後、カタカタと震えだした奥様。
「母上、一体どうしたのですか?手紙を見せて下さい」
エドワード様が手紙を奥様から奪い取り、その場で読み始めた。
「これは…」
そのまま伯父様に手紙を渡したエドワード様。一体何が書かれていたのだろう。手紙を読み終わった伯父様も、驚愕の顔をしている。
「あの、手紙には一体何がかかれていたのですか?私にも見せて下さい」
スッと手をのばして手紙を取ろうとしたのだが…
「マリー、ちょっと待ってくれ。君にはその…刺激が強すぎると言うか、なんと言うか…」
そう言って、エドワード様が手紙を閉ってしまったのだ。
「エドワード、あなたの気持ちもわかるわ。でも…マリーちゃんには知る権利があると思うの。内容が内容だけに、ショックを受けるかもしれないけれど…それでも今のマリーちゃんなら、きっと大丈夫よ。それに、マリーちゃんの意見も聞くべきだと思うし…」
一体何が書かれていたのだろう。私にとってショックな事とは、一体何なのだろう。
「エドワード様、私はどんな内容でも、今更傷ついたりしませんわ。既に覚悟は出来ております。どうか手紙を見せて頂けないでしょうか?」
エドワード様の方を真っすぐ見つめ、そう伝えた。すると、ゆっくりと手紙を差し出してくれたエドワード様。
手紙を受け取り、目を通す。
「これは…」
お母様は私が想像していた以上に、色々と証拠を集めていた様だ。さらにお母様が集めた証拠には、私が想像もしなかった内容も含まれていた。
「なるほど、だから父はお母様を殺したのですね…証拠を隠滅するとともに、口封じの為に。ただ、お母様の方が一枚上手だった様ですね。伯父様、今すぐ王都にある荷物を預ける事が出来る施設に行って、荷物を回収しましょう。そこにお母様が残した証拠の数々があるはずですわ。それにこの録音機にも、きっと何かの証拠が残っているはずです。奥様、エドワード様、母が命を懸けて集めた証拠の数々です。私は母の命がけの証拠たちを、無駄にしたくはありません。どうか、ご決断を!」
「マリーの言う通りです。今こそ、あなた様達が王族として返り咲くときです。とにかく、私は一足先に王都に戻って、マリオネットが残した証拠を回収するとともに、マスティン侯爵とも連絡を取ります。今マスティン侯爵は、ルイード殿下と王妃殿下に不満を抱いている貴族を集めてくれていますし、動くなら今です!」
私たちの言葉を聞いた奥様とエドワード様が、お互いの顔を見合わせている。
「母上、マリーが僕と共に戦ってくれると言っている今、僕は王都に戻り、王妃とルイード、さらにはクディスル公爵家やシャラティア公爵と戦おうと思っています。ただ…シャルティア公爵は、マリーの実の父親だ。この事実が明るみに出れば、公爵もただでは済まない。マリー、本当にいいのかい?」
この期に及んで、私の心配をしてくれるエドワード様。心配そうに私を見つめるエドワード様の手を、ギュッと握った。
「私はもう、覚悟は出来ておりますわ。たとえ血のつながった親子であったとしても、私は父のやった事を許すことはできません。それに私は、もうあの人の娘ではありませんから」
そう、私はあの人に勘当されているのだ。それに何より、私のたった1人の味方だったお母様を殺した、あの男が憎い!
「分かったよ。ありがとう。グラッセル侯爵、僕たちの心はもう決まっています。共に戦ってくれますか?」
「もちろんですよ。私は妹を殺されたあの日から、あいつらが憎くて仕方がなかったのです。姪のマリーまでもが酷い仕打ちを受けていたのだ。徹底的に叩き潰しましょう!もちろん、マスティン侯爵も同じ気持ちです」
「ありがとうございます、侯爵。それでは僕たちも、王都に戻る準備を行います。ただ…」
エドワード様が私の方を真っすぐと見つめる。
「マリー、本当にいいのかい?この地は君にとって、安息の地だっただろう?一度王都に戻ったら、もう二度とここには戻って来られないかもしれないのだよ」
もう二度とこの地に戻って来られないかもしれないか…この地に来てから、私は本当に幸せだった。ルーマさんはじめ、ルリアさんやルルミさん、アイラさん、それに共に働いた使用人たち、よく行くお店の人たち、たくさんの人たちから優しくしてもらった。
正直ずっとこの地にいたい気持ちもある。でも…私の居場所はここではない…私はやはり、王都に戻るべきなのだと思う。
「はい、大丈夫ですわ。ただ、最後にルーマさんたちに、きちんと自分の事を話してからこの地を去りたいのですが…」
「もちろんだよ、ルーマさんにはきちんと僕たちの事を話して、この地を去ろう。それに、この屋敷で働いていた使用人たちにも、きちんと話をしないとね」
「よし、話はまとまりましたね。とにかく私は一度王都に戻り、侯爵や他の協力者たちと話をしないといけないし、何よりもマリオネットが残してくれた証拠の品々にも目を通さないといけませんから」
「色々とありがとう、それじゃあ、僕たちも準備ができ次第、王都に向かうよ」
「アンリ妃、エドワード殿下、これからは密に連絡を取った方がいいでしょう。これは通信機です。これで通信を取り合いましょう」
そう言うと、伯父様が通信機をエドワード様達に渡していた。
「まあ、こんな便利なものがあるなら、最初から渡して下さったらよかったのに…」
「申し訳ございません、通信機を使うほど急用の連絡は、今までないかと思っておりましたので…」
そう言って苦笑いをしている伯父様。何はともあれ、準備は整ったのだ。正直自分たちが今から行う事を考えると、恐怖で体が震える。でも、今まで沢山の人が、涙を流してきたのだ。
その人たちの為にも、命を懸けて証拠を残してくれたお母様の為にも、今まで冷遇されてきた奥様やエドワード様の為にも、そして何より自分自身の為にも。私は王都に戻って戦うと決めたのだ。




